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工芸レポート
老舗の質と真新しさにときめく一膳
時は高度経済成長。『イイものがほしい、お箸でも高級のものがほしい』という需要が高まっていた頃、橋本幸作漆器店では漆箸の製作を始めました。
それ以来石川県の県木である「能登ヒバ」と、唯一の天然塗料「漆」をもとに、代々続く漆箸工房の「十八番」(おはこ)の技を生かして、一膳一膳を丹念に仕上げています。
2020年には、漆に馴染みのない若年層が多くなっている近年の風潮を鑑みて、漆芸の里・輪島で70年以上続く漆箸工房職人の「もっと気軽に、漆の箸を使って欲しい。」との思いから、今の暮らしに馴染む新しい漆の箸『漆のお箸 十八膳』という新ブランドを立ち上げました。
十八膳の特徴は、伝統的な輪島うるし箸に留まらない模様やデザイン、塗りによる見た目の真新しさやユニークな触り心地。
老舗の良質さと楽しいデザイン性を兼ね備えた一膳は、日々の食事のよき相棒となってくれるでしょう。
2020年から展開している「十八膳」。(写真の柄の種類は水玉)
2020年から展開している「十八膳」。(写真の柄の種類は水玉)
能登ヒバの温もりと新しい漆の質感
北陸が誇る世界農業遺産として認定された能登の里山里海。橋本幸作漆器店では能登の自然に育まれた木目が美しい「能登ヒバ」を使用しています。
優れた耐久性の食器から住宅の建材としても使われる良質な木材です。
北陸のものづくりでは、地元の木材を使うことで、次の木が育ち、森を守ることにも繋がっています。
能登ヒバは、「ヒノキチオール」という天然成分を多く含み、抗菌作用にも長けており、カビなどの繁殖も防いでくれます。
見た目の美しさに加えて、耐久性に優れ、抗菌性も実証された箸にもとても適した素材なのです。
また、能登ヒバを木地にした箸はとても軽いため、食材の重みを直に伝えてくれるので、食体験の機微をより鮮明に感じ取ることが出来ます。
新ブランド『十八膳』の魅力は、独特の質感の「十八膳塗」。 新しいものを生み出そうと試行錯誤する中、偶然に粘度を高めた漆を木地に直接塗る独自製法がうまれました。
従来つるっと滑らかな表面が特徴の漆製品の中で、ざらりとした質感は漆界の革命児。
独特の質感と粋なデザインが、日々の食卓に新鮮味をプラスします。
塗りから絵付け、検品まで、すべての工程を熟練の職人が一つひとつ心を込めて手作業で行い、化学塗料は一切使わず自然素材のみなので、安心して口することができるのも嬉しいですね。
手にしたときに感じる自然素材の温もり、伝統にとらわれない現代的な見た目や舌触りが、毎日の食卓に安心感と高揚感を添えてくれるでしょう。
十八膳のような若者に響くポップな箸を手がける一方で、伝統の技を生かした本格的な蒔絵入りの輪島漆箸も製作しています。
十八膳のような若者に響くポップな箸を手がける一方で、伝統の技を生かした本格的な蒔絵入りの輪島漆箸も製作しています。
船と呼ばれる塗り専用の道具。
船と呼ばれる塗り専用の道具。
手描きの蒔絵だけでなく、このようにハンコを用いて箸を転がしながら模様を施す技法もあります。柄によっては工程を何層にも重ねることで、より多彩で表情豊かな模様を生み出すことができます。
手描きの蒔絵だけでなく、このようにハンコを用いて箸を転がしながら模様を施す技法もあります。柄によっては工程を何層にも重ねることで、より多彩で表情豊かな模様を生み出すことができます。
生き物の漆と対話して次世代へ
「『漆は生き物』だからいまだにわからないこともある」と80代の先輩職人から聞いたことがあります。近くの同業者にやり方を聞いてみたりもしましたが、聞いたところで同じようにはいかなかったですね。例えば2階で塗ってるのか1階で塗ってるのか、海側にあるのか山側にあるのかなどで湿度や温度が違って、環境に合わせて塗り方を変える必要があるんです。それが大変でもあり、逆に楽しさでもありますね。」と話す坂本さん。
今回インタビューを受けてくださった坂本さん。
今回インタビューを受けてくださった坂本さん。
幼少期は、当たり前の風景になっていた家業。まさか自分がやるとは思ってもいなかったそうです。
坂本さんは、高校を卒業後に県外で5年過ごし、輪島に帰ってきたタイミングで、継承することになったものの、技術を引き継ぐ間も無く先代が亡くなられ、自身の感覚だけを頼りに、漆と対話しながら歩んできました。
「今まで見てきたことや、そういえばこんな音が鳴ってたなとか、正しいのかわからないまま感覚的にずっとやってきた。しかし仕上がりが全然違うので、なんで父が作ったものと違うんだろうと試行錯誤しながらやってましたね。」
そして新たにうるし箸を様々な年代の人に届けることを目標として『漆のお箸 十八膳』のブランドを立ち上げた坂本さん。 十八膳を始めたことで若い人に見てもらえたり反応をもらえたことが嬉しいと話します。
「十八膳のロゴをみて、あの箸だねとわかってもらえるようなところまで行きたいですね。」

『安心安全に食べてもらうような箸を作ること』、『化学塗料ではなく、すべて天然素材であること』にこだわり続け、坂本さんは、今日も漆と対話しながら、先代から受け継いだ漆箸の魅力を次世代に届けています。
取材:新 拓也 写真:森下 大喜 文:下野 惠美子
十八膳(橋本幸作漆器店)
locationPin石川県
#漆器-漆箸
石川県輪島発の漆塗り箸ブランド「十八膳」は、能登ヒバと天然漆を用い、職人技と独自の「十八膳塗り」で仕上げた上質な日常箸。美しく丈夫で口当たりも良く、伝統と使いやすさを両立してます。
最終更新日 : 2025/12/08
代表者
橋本きよ乃
創業年
1949年
従業員
2人
所在地
〒928ー0023 石川県輪島市気勝平町52番地39
制作・商品開発を依頼する
「わたしの名品帖」で取り扱っている各工芸メーカーは、独自の光る技術を持っています。 そんな工芸品の技術力を活用したOEMや商品開発などをご検討のお客様はお気軽にご相談ください。
十八膳(橋本幸作漆器店)
locationPin石川県
#漆器-漆箸
石川県輪島発の漆塗り箸ブランド「十八膳」は、能登ヒバと天然漆を用い、職人技と独自の「十八膳塗り」で仕上げた上質な日常箸。美しく丈夫で口当たりも良く、伝統と使いやすさを両立してます。
最終更新日 : 2025/12/08
代表者
橋本きよ乃
創業年
1949年
従業員
2人
所在地
〒928ー0023 石川県輪島市気勝平町52番地39
工芸レポート
老舗の質と真新しさにときめく一膳
時は高度経済成長。『イイものがほしい、お箸でも高級のものがほしい』という需要が高まっていた頃、橋本幸作漆器店では漆箸の製作を始めました。
それ以来石川県の県木である「能登ヒバ」と、唯一の天然塗料「漆」をもとに、代々続く漆箸工房の「十八番」(おはこ)の技を生かして、一膳一膳を丹念に仕上げています。
2020年には、漆に馴染みのない若年層が多くなっている近年の風潮を鑑みて、漆芸の里・輪島で70年以上続く漆箸工房職人の「もっと気軽に、漆の箸を使って欲しい。」との思いから、今の暮らしに馴染む新しい漆の箸『漆のお箸 十八膳』という新ブランドを立ち上げました。
十八膳の特徴は、伝統的な輪島うるし箸に留まらない模様やデザイン、塗りによる見た目の真新しさやユニークな触り心地。
老舗の良質さと楽しいデザイン性を兼ね備えた一膳は、日々の食事のよき相棒となってくれるでしょう。
2020年から展開している「十八膳」。(写真の柄の種類は水玉)
2020年から展開している「十八膳」。(写真の柄の種類は水玉)
能登ヒバの温もりと新しい漆の質感
北陸が誇る世界農業遺産として認定された能登の里山里海。橋本幸作漆器店では能登の自然に育まれた木目が美しい「能登ヒバ」を使用しています。
優れた耐久性の食器から住宅の建材としても使われる良質な木材です。
北陸のものづくりでは、地元の木材を使うことで、次の木が育ち、森を守ることにも繋がっています。
能登ヒバは、「ヒノキチオール」という天然成分を多く含み、抗菌作用にも長けており、カビなどの繁殖も防いでくれます。
見た目の美しさに加えて、耐久性に優れ、抗菌性も実証された箸にもとても適した素材なのです。
また、能登ヒバを木地にした箸はとても軽いため、食材の重みを直に伝えてくれるので、食体験の機微をより鮮明に感じ取ることが出来ます。
新ブランド『十八膳』の魅力は、独特の質感の「十八膳塗」。 新しいものを生み出そうと試行錯誤する中、偶然に粘度を高めた漆を木地に直接塗る独自製法がうまれました。
従来つるっと滑らかな表面が特徴の漆製品の中で、ざらりとした質感は漆界の革命児。
独特の質感と粋なデザインが、日々の食卓に新鮮味をプラスします。
塗りから絵付け、検品まで、すべての工程を熟練の職人が一つひとつ心を込めて手作業で行い、化学塗料は一切使わず自然素材のみなので、安心して口することができるのも嬉しいですね。
手にしたときに感じる自然素材の温もり、伝統にとらわれない現代的な見た目や舌触りが、毎日の食卓に安心感と高揚感を添えてくれるでしょう。
十八膳のような若者に響くポップな箸を手がける一方で、伝統の技を生かした本格的な蒔絵入りの輪島漆箸も製作しています。
十八膳のような若者に響くポップな箸を手がける一方で、伝統の技を生かした本格的な蒔絵入りの輪島漆箸も製作しています。
船と呼ばれる塗り専用の道具。
船と呼ばれる塗り専用の道具。
手描きの蒔絵だけでなく、このようにハンコを用いて箸を転がしながら模様を施す技法もあります。柄によっては工程を何層にも重ねることで、より多彩で表情豊かな模様を生み出すことができます。
手描きの蒔絵だけでなく、このようにハンコを用いて箸を転がしながら模様を施す技法もあります。柄によっては工程を何層にも重ねることで、より多彩で表情豊かな模様を生み出すことができます。
生き物の漆と対話して次世代へ
「『漆は生き物』だからいまだにわからないこともある」と80代の先輩職人から聞いたことがあります。近くの同業者にやり方を聞いてみたりもしましたが、聞いたところで同じようにはいかなかったですね。例えば2階で塗ってるのか1階で塗ってるのか、海側にあるのか山側にあるのかなどで湿度や温度が違って、環境に合わせて塗り方を変える必要があるんです。それが大変でもあり、逆に楽しさでもありますね。」と話す坂本さん。
今回インタビューを受けてくださった坂本さん。
今回インタビューを受けてくださった坂本さん。
幼少期は、当たり前の風景になっていた家業。まさか自分がやるとは思ってもいなかったそうです。
坂本さんは、高校を卒業後に県外で5年過ごし、輪島に帰ってきたタイミングで、継承することになったものの、技術を引き継ぐ間も無く先代が亡くなられ、自身の感覚だけを頼りに、漆と対話しながら歩んできました。
「今まで見てきたことや、そういえばこんな音が鳴ってたなとか、正しいのかわからないまま感覚的にずっとやってきた。しかし仕上がりが全然違うので、なんで父が作ったものと違うんだろうと試行錯誤しながらやってましたね。」
そして新たにうるし箸を様々な年代の人に届けることを目標として『漆のお箸 十八膳』のブランドを立ち上げた坂本さん。 十八膳を始めたことで若い人に見てもらえたり反応をもらえたことが嬉しいと話します。
「十八膳のロゴをみて、あの箸だねとわかってもらえるようなところまで行きたいですね。」

『安心安全に食べてもらうような箸を作ること』、『化学塗料ではなく、すべて天然素材であること』にこだわり続け、坂本さんは、今日も漆と対話しながら、先代から受け継いだ漆箸の魅力を次世代に届けています。
取材:新 拓也 写真:森下 大喜 文:下野 惠美子
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