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Craft Report
100%天然素材、一家相伝の和ろうそく作り。
滋賀県高島市、琵琶湖の西側に位置し自然豊かな山地が広がるこの町に、日本でも数少ない手作り和ろうそくの「大與」があります。今から100年以上前の1914年(大正3年)に初代がこの地で創業して以来、国産で天然の櫨蝋(はぜろう)を100%使ったろうそくを手作りで生み出し続けています。
長年にわたり、古くからの技法を守り続けた和ろうそく作りの功績が認められ、昭和59年に大與のろうそくは、滋賀県の伝統工芸品として認定されました。今では長男で4代目の大西 巧さんが家業を受け継ぎ、伝統のスタイルを守りながらも、時代と向き合いながら新しい商品作りにチャレンジされています。
和ろうそくの特徴は、櫨(はぜ)の実を原料とする蝋を使うことで、パラフィン(石油系)で作られる洋ろうそくに比べて、少ない煙で燃焼することが挙げられますが、生産量が少なく貴重な材料となっています。しかし、手間をかけて作られる和ろうそくの炎は美しく揺らぎ、長年に渡って使う人に癒しを感じさせてきました。
蝋の温度と向き合う、伝統の手掛け製法
伝統的な和ろうそくの作り方としては、まず蝋燭の芯を作るところから始まります。和紙を巻いた串の上に、イグサ科の灯心草を巻きつけて真綿で薄く止めます。芯の太さや巻き方によってはろうそくの火力が変わり、蝋の溶け方にも影響してくるので、商品の品質を安定させるためには長年培われた技術を要します。最終的に串は芯から抜かれてその部分に空洞ができますが、そのまま燭台の針に挿すための穴になります。
大與の和ろうそくは古くから継承される「手掛け」という製法で作られています。芯に下地として蝋を塗った後「下掛け」「上掛け」と呼ばれる工程を経て作ります。
芯を右手で回転させながら、およそ40度に溶かされた粘り気のある蝋を素手で塗り重ねていくのが下掛けの工程。
次の上掛けの工程では、下掛けの蝋よりも溶けにくい蝋を使い、芯に近い内側と外側とで溶ける時間に違いを持たせて塗りつけていきます。
こうすることで溶けにくい外側の蝋が堤防のような役割を果たし、一般的な洋ろうそくよりも蝋が垂れにくく、芯だけを残してきれいに燃え尽きます。
竹の爪を親指にはめて蝋を均一にかけていく。
竹の爪を親指にはめて蝋を均一にかけていく。
塗り終わったろうそく。工程を見ていると、ここまで太くするのに相当な時間がかかると想像できる。
塗り終わったろうそく。工程を見ていると、ここまで太くするのに相当な時間がかかると想像できる。
頭を切って芯を出した状態。ろうそくの断面はまさに年輪のような模様になっていた。
頭を切って芯を出した状態。ろうそくの断面はまさに年輪のような模様になっていた。
手掛けの作業は芯に塗っては乾かす工程を繰り返し、求める太さに近づけていきますが、気温・湿度の変化や自身の体調までも出来栄えに影響するそうです。
「何度も季節を経験しないと体得できない難しい技術、昨日良く作れたものを今日も同じように何百本作れるようになって、やっと一人前に認められる」と大西さんは言います。

大與には伝統的な和ろうそくだけではなく、気兼ねなく使える小さくて可愛らしい「まめろうそく」や、サステナビリティを意識した米ぬか由来の蝋を使ったろうそくも開発されています。

2011年にはこの「お米のろうそく」がグッドデザイン賞・グッドデザイン中小企業庁長官賞に選ばれており、大西さんの描く新しいろうそくのアイデアが、社会に知られるきっかけになりました。これまでニーズとして存在しなかった米ぬかでできたろうそくは、今わたしたちが使っているろうそくの材料について、考え直すきっかけになっています。パラフィン(石油系)でできたろうそくよりも、地球に少しでも優しいサステナブルなお米のろうそくを使いたい。そんな新たなファンに支えられ、お米のろうそくは開発から15年近くたった今でもロングヒットしているそうです。
自然と人が共生するために、ろうそくは先人の知恵の証。
今の時代、家の中に自然の力を取り込まないような電化した生活になりましたが、自然を遠ざけ過ぎた生活はあまりにも殺伐としていて、ある意味で危惧する面もあると感じているそうです。大西さんはろうそくのことだけではなく、火についての様々な文化を調べていくうちに、古来から信じられてきた陰陽五行に触れることになります。

万物は「木・火・土・金・水」で構成され、さらにそれぞれ十干(じっかん)という陽と陰の相反する属性に分類されるといいます。
火における陽と陰を示す漢字は「丙(ひのえ)」と「丁(ひのと)」と呼ばれますが、陽属性である丙は、太陽など人の手に負えない大自然の概念とされ、反対に陰属性の丁は人が操る小さい火とされています。この時大西さんは「火」「丁」を漢字の部首として並べると「灯」になるということに気づき、様々な思いが込み上げてきたと言います。
先人が生活の中で火と共生するために、わざわざこの「灯」という漢字を作って後世に残したことを思えば、自分たちが営んでいるろうそく作りも後の社会にとって意味があるのではと、大きな自信になったそうです。
手掛け作業の途中に取材を受けていただいたので、左手にはまだ蝋がこびりついている。
手掛け作業の途中に取材を受けていただいたので、左手にはまだ蝋がこびりついている。
「木造建築が主流の日本において、人が知恵を出してろうそくを発明し、本当は怖い自然現象を小さくコントロールすることに成功しました。火という自然の力を安全に借りて室内に取り込むことができたんです。自分の声は小さくても、商品を作り続けていくことで、皆さんの生活に少しでも自然が取り込まれて、いい距離感で火を楽しんでいただけるようになれば嬉しいです」
大與
locationPin滋賀県
#諸工芸-和ろうそく
国産で天然の櫨蝋を100%使い、全て手作りで和ろうそくを作り続けている大與。伝統的な和ろうそくだけでなく、サスティナビリティを意識した「お米のろうそく」や、小さくて可愛らしい「まめそうろく」など新たな和ろうそくの可能性も生み出し続けています。
Last Updated : 2024/10/01
Representative
大西 巧
Established year
1914年
Employees
Location
〒520-1623 滋賀県高島市今津町住吉2丁目5−8
Request Production/Product Development
Each craft manufacturer showcased in "MEIHINCHO" boasts its own distinctive and innovative technology. For those interested in leveraging this craftwork technology for OEM or product development, please don't hesitate to reach out to us.
大與
locationPin滋賀県
#諸工芸-和ろうそく
国産で天然の櫨蝋を100%使い、全て手作りで和ろうそくを作り続けている大與。伝統的な和ろうそくだけでなく、サスティナビリティを意識した「お米のろうそく」や、小さくて可愛らしい「まめそうろく」など新たな和ろうそくの可能性も生み出し続けています。
Last Updated : 2024/10/01
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大西 巧
Established year
1914年
Employees
Location
〒520-1623 滋賀県高島市今津町住吉2丁目5−8
Craft Report
100%天然素材、一家相伝の和ろうそく作り。
滋賀県高島市、琵琶湖の西側に位置し自然豊かな山地が広がるこの町に、日本でも数少ない手作り和ろうそくの「大與」があります。今から100年以上前の1914年(大正3年)に初代がこの地で創業して以来、国産で天然の櫨蝋(はぜろう)を100%使ったろうそくを手作りで生み出し続けています。
長年にわたり、古くからの技法を守り続けた和ろうそく作りの功績が認められ、昭和59年に大與のろうそくは、滋賀県の伝統工芸品として認定されました。今では長男で4代目の大西 巧さんが家業を受け継ぎ、伝統のスタイルを守りながらも、時代と向き合いながら新しい商品作りにチャレンジされています。
和ろうそくの特徴は、櫨(はぜ)の実を原料とする蝋を使うことで、パラフィン(石油系)で作られる洋ろうそくに比べて、少ない煙で燃焼することが挙げられますが、生産量が少なく貴重な材料となっています。しかし、手間をかけて作られる和ろうそくの炎は美しく揺らぎ、長年に渡って使う人に癒しを感じさせてきました。
蝋の温度と向き合う、伝統の手掛け製法
伝統的な和ろうそくの作り方としては、まず蝋燭の芯を作るところから始まります。和紙を巻いた串の上に、イグサ科の灯心草を巻きつけて真綿で薄く止めます。芯の太さや巻き方によってはろうそくの火力が変わり、蝋の溶け方にも影響してくるので、商品の品質を安定させるためには長年培われた技術を要します。最終的に串は芯から抜かれてその部分に空洞ができますが、そのまま燭台の針に挿すための穴になります。
大與の和ろうそくは古くから継承される「手掛け」という製法で作られています。芯に下地として蝋を塗った後「下掛け」「上掛け」と呼ばれる工程を経て作ります。
芯を右手で回転させながら、およそ40度に溶かされた粘り気のある蝋を素手で塗り重ねていくのが下掛けの工程。
次の上掛けの工程では、下掛けの蝋よりも溶けにくい蝋を使い、芯に近い内側と外側とで溶ける時間に違いを持たせて塗りつけていきます。
こうすることで溶けにくい外側の蝋が堤防のような役割を果たし、一般的な洋ろうそくよりも蝋が垂れにくく、芯だけを残してきれいに燃え尽きます。
竹の爪を親指にはめて蝋を均一にかけていく。
竹の爪を親指にはめて蝋を均一にかけていく。
塗り終わったろうそく。工程を見ていると、ここまで太くするのに相当な時間がかかると想像できる。
塗り終わったろうそく。工程を見ていると、ここまで太くするのに相当な時間がかかると想像できる。
頭を切って芯を出した状態。ろうそくの断面はまさに年輪のような模様になっていた。
頭を切って芯を出した状態。ろうそくの断面はまさに年輪のような模様になっていた。
手掛けの作業は芯に塗っては乾かす工程を繰り返し、求める太さに近づけていきますが、気温・湿度の変化や自身の体調までも出来栄えに影響するそうです。
「何度も季節を経験しないと体得できない難しい技術、昨日良く作れたものを今日も同じように何百本作れるようになって、やっと一人前に認められる」と大西さんは言います。

大與には伝統的な和ろうそくだけではなく、気兼ねなく使える小さくて可愛らしい「まめろうそく」や、サステナビリティを意識した米ぬか由来の蝋を使ったろうそくも開発されています。

2011年にはこの「お米のろうそく」がグッドデザイン賞・グッドデザイン中小企業庁長官賞に選ばれており、大西さんの描く新しいろうそくのアイデアが、社会に知られるきっかけになりました。これまでニーズとして存在しなかった米ぬかでできたろうそくは、今わたしたちが使っているろうそくの材料について、考え直すきっかけになっています。パラフィン(石油系)でできたろうそくよりも、地球に少しでも優しいサステナブルなお米のろうそくを使いたい。そんな新たなファンに支えられ、お米のろうそくは開発から15年近くたった今でもロングヒットしているそうです。
自然と人が共生するために、ろうそくは先人の知恵の証。
今の時代、家の中に自然の力を取り込まないような電化した生活になりましたが、自然を遠ざけ過ぎた生活はあまりにも殺伐としていて、ある意味で危惧する面もあると感じているそうです。大西さんはろうそくのことだけではなく、火についての様々な文化を調べていくうちに、古来から信じられてきた陰陽五行に触れることになります。

万物は「木・火・土・金・水」で構成され、さらにそれぞれ十干(じっかん)という陽と陰の相反する属性に分類されるといいます。
火における陽と陰を示す漢字は「丙(ひのえ)」と「丁(ひのと)」と呼ばれますが、陽属性である丙は、太陽など人の手に負えない大自然の概念とされ、反対に陰属性の丁は人が操る小さい火とされています。この時大西さんは「火」「丁」を漢字の部首として並べると「灯」になるということに気づき、様々な思いが込み上げてきたと言います。
先人が生活の中で火と共生するために、わざわざこの「灯」という漢字を作って後世に残したことを思えば、自分たちが営んでいるろうそく作りも後の社会にとって意味があるのではと、大きな自信になったそうです。
手掛け作業の途中に取材を受けていただいたので、左手にはまだ蝋がこびりついている。
手掛け作業の途中に取材を受けていただいたので、左手にはまだ蝋がこびりついている。
「木造建築が主流の日本において、人が知恵を出してろうそくを発明し、本当は怖い自然現象を小さくコントロールすることに成功しました。火という自然の力を安全に借りて室内に取り込むことができたんです。自分の声は小さくても、商品を作り続けていくことで、皆さんの生活に少しでも自然が取り込まれて、いい距離感で火を楽しんでいただけるようになれば嬉しいです」
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