かつては宮廷で使われていた、伝統的な「京うちわ」
1944年以来、京都の伝統工芸品・京うちわをつくり続けている、塩見団扇。創業より積み重ね、蓄積したものづくりの力と想いを、現代の技術や流行と合わせて、さまざまなデザインのうちわを製作しています。
京うちわは「都うちわ」とも言われ、中国から朝鮮を経て日本に伝わり、江戸時代に貴族の間で用いられた「御所うちわ」が始まりとされています。涼をとるだけでなく、風や光、塵を防いだり、顔を隠す装飾品としても利用されました。また一昔前までは、贈答文化でも活躍。夏になればお米屋さんやお酒屋さん、呉服屋さんらが店の名前が入ったうちわをお中元として贈答に用いていました。
「差し柄構造」を生かした、自由な発想のうちわを制作
塩見団扇のうちわは、伝統的な京うちわならではの「差し柄構造」で作られています。柄と中骨が一体ではなく、別々に作られていてうちわの面を柄の部分に差し込むセパレートタイプ(差し柄構造)になっています。これにより扇面が非常にフラットになっているため、上絵では人物や風景のほか俳句、和歌などさまざまなモチーフを、描絵、版画、手染、手彫などそれぞれの技法を活かした、さまざまな表現ができるのです。
また形やデザインも自由自在。丸型はもちろん主流な丸型や角型だけでなく、自由な発想で、珍しい形のうちわも作ることができ、現代のニーズに合わせたうちわも制作することができます。また、上質な国産の素材を使用しているところも特徴です。骨には、固さやしなり具合が最適な丹波の真竹を、紙は主として美濃、越中、越前の和紙を使用しています。
うちわづくりは、柄を付ける「柄差(えさし)」のほか、うちわの縁に細長い紙を張る「へりとり」など細かい作業が多いため、集中力が必要です。また、細竹の両面にうちわ紙が貼られた後に、念ベラという道具を用いて、うちわ骨の際に筋を付けていく「念付け」という工程により、しなりも良く、見た目も美しくなります。こういった一手間を大事にすることで、使い心地と見た目の美しさを兼ね備えたうちわをつくることができます。
うちわ骨の際に筋(すじ)を付けていく念つけ作業。うちわのしなりや見た目が良くなる。
伝統を残していく。現代でも親しまれる、質のいいうちわをつくる
塩見団扇では、京うちわをもっと手軽に手に取ってほしいとの想いから、さまざまな取り組みを行っています。例えば、京うちわの技術を生かしたオーダーメイド制作です。気に入った生地や自作の絵や写真のほか、切り絵の透かしにしたりと、好きな素材とデザインのうちわを仕立ててもらうことができます。
さらに、現代風のデザインが融合した商品も制作。木製のスタンドに差し込めばどこにでも置けるインテリアになる「森のうちわ」や、みずみずしく爽やかな京野菜をイメージしたデザインの「やさいうちわ」、洋室にも似合うスタンドなしで飾れるモダンなデザインの「角扇」など、伝統の文様や図案を用いたうちわに限らない、今の暮らしに寄り添ったものづくりも心がけています。こうやって生まれたうちわは、「第9回東京ギフトショー 第9回Life&Design展」で「ベスト匠の技賞」を受賞しました。
従来の用途やデザインのうちわに着目してもらう取り組みだけでなく、新しいうちわの可能性にチャレンジしていくことにも達成感を感じるという秋田悦克さん。今後の目標には「伝統産業としても残していけるような質のいいうちわを、そして今までにない少し変わったうちわをつくって、たくさんの人に配りたいと思ってもらいたい。そして上質な京都に塩見団扇のような多様なうちわがあるということを、たくさんの人に知ってもらって、ぜひ仰いで欲しい」と話してくれました。
自然由来の素材で、電気も使わずに涼しくなれるので、実は現代にぴったりなエコでロハスな、京うちわ。心がやわらぐ、上質なうちわをぜひ手に取ってみてください。
取材:新 拓也 撮影:森下 大喜 文:大西 健斗