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工芸レポート
風土が生み、人が育む輪島塗り
石川県輪島市で生まれる輪島塗りは、昭和52年、全国で初めて国の重要無形文化財に指定された漆器です。
縁起の良い植物や動物を金で表現した華やかな意匠と、日常使いに耐える確かな丈夫さを兼ね備えていることが最大の特徴です。
日本海からの湿潤な風を山々が受け止める輪島の気候は、漆器づくりに理想的な環境でした。材料となるヒノキアスナロやケヤキも豊かに育つこの地で、輪島塗は自然の恵みと人の技が調和した結晶として、今日まで受け継がれてきたのです。
市場には、表面だけ天然漆を使った漆器も流通していますが、輪島塗りは天然木と天然漆にこだわり続けています。
輪島塗りの丈夫さの秘密は、輪島特産の「地の粉」と呼ばれる珪藻土にあります。この粉を下地に用いることで、輪島塗りは他に類を見ない堅牢さを獲得しました。幾重にも塗り重ねられた天然の漆が、使うほどに艶を増し、深みを帯びていく。時を経るごとに美しさを増すこともまた、輪島塗りならではの魅力です。
輪島塗りが大きく発展した背景には、「塗師屋(ぬしや)」と呼ばれる独自の存在がありました。
企画や販売で専門性を示し、職人たちの技を束ね、全国を巡って輪島塗の魅力を伝えました。田谷漆器店も、江戸時代から続くそんな塗師屋の一軒です。
輪島特産の「地の粉」。
輪島特産の「地の粉」。
時間をかけてゆっくり作る『暮らしの塗師屋』
田谷漆器店では、「暮らしの塗師屋」をテーマに、自然と人が共生する豊かな暮らしを提案しています。
輪島塗りの製作は分業制で、木地づくり、塗り、加飾など、多くの専門職人が携わります。
田谷漆器店では、一つ一つの工程を、決して急ぐことなく、丁寧に進めていくことを大切にしています。
漆を急いで乾燥させた場合に起きる漆の匂いの残留や、うるしかぶれを未然に防ぎ、気持ちよく輪島塗りを使ってもらうために、脆弱な器にならないように、時間をかけてゆっくりと仕上げています。
塗り工房の様子。
塗り工房の様子。
田谷漆器店では、輪島塗り以外の漆器の修理も引き受けています。江戸時代から各地の製品を見て、触れて、学んできた知識と、職人たちの確かな技術力があるからこそできることだと言えます。

特徴的な材料や工程があり華やかな印象を受ける輪島塗りですが、木地に生漆を染み込ませて強度を高める「木地固め」、布で補強する「布着せ」など特徴的な地道な工程を重ねていきます。
この道42年のベテラン職人さんは「出来上がったものは派手だけど、仕事は地味。でも細かい仕事ほど匠の技が出る」と話します。今でも他の人の仕事ぶりを見て学び続けているのだそうです。
木地に生漆を染み込ませて気質を強化し、反りや割れを防ぎ、堅牢にする「木地固め」の工程。
木地に生漆を染み込ませて気質を強化し、反りや割れを防ぎ、堅牢にする「木地固め」の工程。
布で木地の強度を固める「布着せ」(布かぶせ)の工程。底や口縁など、傷みやすい部分を補強するために、漆を染み込ませた布を糊漆で貼っていく。この工程も輪島塗りとして特徴的な工程。
布で木地の強度を固める「布着せ」(布かぶせ)の工程。底や口縁など、傷みやすい部分を補強するために、漆を染み込ませた布を糊漆で貼っていく。この工程も輪島塗りとして特徴的な工程。
塗りの工房では、入社3年目の若い女性職人が黙々と筆を動かしていました。
東京から移住してきた彼女は、子どもの頃に輪島で出会った漆のスプーンの使い心地が忘れられず、漆職人の道を選んだといいます。
職人の地道な手仕事が、天然の漆の使用感の良さや堅牢さ、使うほどに艶を増し、深みを帯びる美しさを最大化しています。
『古いままでいい』という革新
代表の田谷昂大さんが家業に戻ったのは9年前のこと。
大学時代、引っ越し先で買ったお椀で飲む味噌汁が、どうしても美味しく感じられませんでした。
「味噌汁の味が悪いわけじゃない。実家で何気なく使っていた輪島塗りのお椀が、本当に良かったんだと気づいたんです」と田谷さん。
代表の田谷昂大さん。
代表の田谷昂大さん。
木製の器は熱を逃がさず、天然漆の口当たりや手への吸いつきは格別です。高台のある形状は、手にすっと収まり、食卓に美しい佇まいをもたらします。
これ以上の進化が難しいほど、完成された形だと言えるでしょう。
田谷さんは「商品を無理に変える必要はない。パッケージや見せ方、売り方を変えるだけでいい」と話します。

帰郷して最初に目を向けたのは、社員の高齢化でした。
当時、40代の先輩が最も若手だったという状況を、少しずつ、しかし着実に変えていきました。「いきなり変えると反発やストレスが生まれる。良いところは残しながら、悪いところを少しずつ変えていく。そこは本当に悩みました」と田谷さん。
今では30〜40代がメインで働く職場となり、飲食店とのコラボレーションやレンタルサービスなど、新しい展開も始まっています。伝統工芸におけるイノベーションとは、古いものを古いまま大切にし、届け方を変えることだと昂大さんは語ります。
田谷漆器店のギャラリー。
田谷漆器店のギャラリー。
塗師屋は昔から文化人でした。全国を巡り、各地の情報を伝え、歌を詠み、茶をたて、花をいけてお客様をもてなし、お客様の本音を聞き出し、それを職人にフィードバックしてきました。
その精神は今も変わりませんが、「これからは、外に売りに出向くだけではなく、たくさんの人をここに呼び込みたい」と田谷さんは話します。
地震を経験し、「輪島塗りを買いに、世界中から人が来る場所にしたい」と強く想ったそうです。
輪島塗りをきっかけに能登全体が潤う未来を描きながら、今日も田谷漆器店は、輪島塗りの魅力を伝えています。
取材:新 拓也 写真:森下 大喜 文:下野 惠美子
田谷漆器店
locationPin石川県
#漆器-輪島塗
田谷漆器店は、江戸時代から続く塗師屋として、天然木と天然漆にこだわる輪島塗りを受け継ぐ老舗です。地道な伝統技法を守りつつ、若手育成や新しい発信にも取り組み、暮らしに寄り添う器づくりを続けています。
最終更新日 : 2025/11/26
代表者
田谷 昂大
創業年
1918年
従業員
13人
所在地
〒928ー0011 石川県輪島市杉平町蝦夷穴55
制作・商品開発を依頼する
「わたしの名品帖」で取り扱っている各工芸メーカーは、独自の光る技術を持っています。 そんな工芸品の技術力を活用したOEMや商品開発などをご検討のお客様はお気軽にご相談ください。
田谷漆器店
locationPin石川県
#漆器-輪島塗
田谷漆器店は、江戸時代から続く塗師屋として、天然木と天然漆にこだわる輪島塗りを受け継ぐ老舗です。地道な伝統技法を守りつつ、若手育成や新しい発信にも取り組み、暮らしに寄り添う器づくりを続けています。
最終更新日 : 2025/11/26
代表者
田谷 昂大
創業年
1918年
従業員
13人
所在地
〒928ー0011 石川県輪島市杉平町蝦夷穴55
工芸レポート
風土が生み、人が育む輪島塗り
石川県輪島市で生まれる輪島塗りは、昭和52年、全国で初めて国の重要無形文化財に指定された漆器です。
縁起の良い植物や動物を金で表現した華やかな意匠と、日常使いに耐える確かな丈夫さを兼ね備えていることが最大の特徴です。
日本海からの湿潤な風を山々が受け止める輪島の気候は、漆器づくりに理想的な環境でした。材料となるヒノキアスナロやケヤキも豊かに育つこの地で、輪島塗は自然の恵みと人の技が調和した結晶として、今日まで受け継がれてきたのです。
市場には、表面だけ天然漆を使った漆器も流通していますが、輪島塗りは天然木と天然漆にこだわり続けています。
輪島塗りの丈夫さの秘密は、輪島特産の「地の粉」と呼ばれる珪藻土にあります。この粉を下地に用いることで、輪島塗りは他に類を見ない堅牢さを獲得しました。幾重にも塗り重ねられた天然の漆が、使うほどに艶を増し、深みを帯びていく。時を経るごとに美しさを増すこともまた、輪島塗りならではの魅力です。
輪島塗りが大きく発展した背景には、「塗師屋(ぬしや)」と呼ばれる独自の存在がありました。
企画や販売で専門性を示し、職人たちの技を束ね、全国を巡って輪島塗の魅力を伝えました。田谷漆器店も、江戸時代から続くそんな塗師屋の一軒です。
輪島特産の「地の粉」。
輪島特産の「地の粉」。
時間をかけてゆっくり作る『暮らしの塗師屋』
田谷漆器店では、「暮らしの塗師屋」をテーマに、自然と人が共生する豊かな暮らしを提案しています。
輪島塗りの製作は分業制で、木地づくり、塗り、加飾など、多くの専門職人が携わります。
田谷漆器店では、一つ一つの工程を、決して急ぐことなく、丁寧に進めていくことを大切にしています。
漆を急いで乾燥させた場合に起きる漆の匂いの残留や、うるしかぶれを未然に防ぎ、気持ちよく輪島塗りを使ってもらうために、脆弱な器にならないように、時間をかけてゆっくりと仕上げています。
塗り工房の様子。
塗り工房の様子。
田谷漆器店では、輪島塗り以外の漆器の修理も引き受けています。江戸時代から各地の製品を見て、触れて、学んできた知識と、職人たちの確かな技術力があるからこそできることだと言えます。

特徴的な材料や工程があり華やかな印象を受ける輪島塗りですが、木地に生漆を染み込ませて強度を高める「木地固め」、布で補強する「布着せ」など特徴的な地道な工程を重ねていきます。
この道42年のベテラン職人さんは「出来上がったものは派手だけど、仕事は地味。でも細かい仕事ほど匠の技が出る」と話します。今でも他の人の仕事ぶりを見て学び続けているのだそうです。
木地に生漆を染み込ませて気質を強化し、反りや割れを防ぎ、堅牢にする「木地固め」の工程。
木地に生漆を染み込ませて気質を強化し、反りや割れを防ぎ、堅牢にする「木地固め」の工程。
布で木地の強度を固める「布着せ」(布かぶせ)の工程。底や口縁など、傷みやすい部分を補強するために、漆を染み込ませた布を糊漆で貼っていく。この工程も輪島塗りとして特徴的な工程。
布で木地の強度を固める「布着せ」(布かぶせ)の工程。底や口縁など、傷みやすい部分を補強するために、漆を染み込ませた布を糊漆で貼っていく。この工程も輪島塗りとして特徴的な工程。
塗りの工房では、入社3年目の若い女性職人が黙々と筆を動かしていました。
東京から移住してきた彼女は、子どもの頃に輪島で出会った漆のスプーンの使い心地が忘れられず、漆職人の道を選んだといいます。
職人の地道な手仕事が、天然の漆の使用感の良さや堅牢さ、使うほどに艶を増し、深みを帯びる美しさを最大化しています。
『古いままでいい』という革新
代表の田谷昂大さんが家業に戻ったのは9年前のこと。
大学時代、引っ越し先で買ったお椀で飲む味噌汁が、どうしても美味しく感じられませんでした。
「味噌汁の味が悪いわけじゃない。実家で何気なく使っていた輪島塗りのお椀が、本当に良かったんだと気づいたんです」と田谷さん。
代表の田谷昂大さん。
代表の田谷昂大さん。
木製の器は熱を逃がさず、天然漆の口当たりや手への吸いつきは格別です。高台のある形状は、手にすっと収まり、食卓に美しい佇まいをもたらします。
これ以上の進化が難しいほど、完成された形だと言えるでしょう。
田谷さんは「商品を無理に変える必要はない。パッケージや見せ方、売り方を変えるだけでいい」と話します。

帰郷して最初に目を向けたのは、社員の高齢化でした。
当時、40代の先輩が最も若手だったという状況を、少しずつ、しかし着実に変えていきました。「いきなり変えると反発やストレスが生まれる。良いところは残しながら、悪いところを少しずつ変えていく。そこは本当に悩みました」と田谷さん。
今では30〜40代がメインで働く職場となり、飲食店とのコラボレーションやレンタルサービスなど、新しい展開も始まっています。伝統工芸におけるイノベーションとは、古いものを古いまま大切にし、届け方を変えることだと昂大さんは語ります。
田谷漆器店のギャラリー。
田谷漆器店のギャラリー。
塗師屋は昔から文化人でした。全国を巡り、各地の情報を伝え、歌を詠み、茶をたて、花をいけてお客様をもてなし、お客様の本音を聞き出し、それを職人にフィードバックしてきました。
その精神は今も変わりませんが、「これからは、外に売りに出向くだけではなく、たくさんの人をここに呼び込みたい」と田谷さんは話します。
地震を経験し、「輪島塗りを買いに、世界中から人が来る場所にしたい」と強く想ったそうです。
輪島塗りをきっかけに能登全体が潤う未来を描きながら、今日も田谷漆器店は、輪島塗りの魅力を伝えています。
取材:新 拓也 写真:森下 大喜 文:下野 惠美子
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