漆芸大坪工房

金沢漆器

<h1>素質と恩師が導いてくれた漆作家の道</h1>
<paragraph>時は江戸時代、加賀藩の前田家御用達の漆器として金沢漆器は誕生しました。<br />
3代目藩主前田利常が、高台寺蒔絵の巨匠を指導者として招き入れ技術を磨いた「加賀蒔絵」は、金沢漆器の代名詞となっています。<br /><br />

大坪直哉さんは、漆を学ぶ前からもの作りや絵を描くことが好きで、もの作りの職に就くことを夢見ながら美大の受験対策として絵画教室に通っていました。
突如当時の恩師から「大坪君は漆がいいかもしれない」 と言われた言葉をきっかけに、漆器作家の道へ進むこととなりました。</paragraph>
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<paragraph>何気ない恩師の言葉を真に受けて、漆について調べてみた大坪さん。加賀蒔絵の硯箱の見事な美しさに魅了され、技法・表現方法の幅広さや自分の性格に合うような性質を知るにつれて「これは一生の仕事にできるのでは？」との思いが湧いてきたそうです。<br />
その後金沢学院大学美術文化学部へ入学、卒業後は輪島漆芸技術研修所、金沢市の漆の老舗「能作」での販売営業の仕事を経て金沢漆器作家として独立し現在「漆芸大坪工房」を営んでいます。<br />
「漆の仕事は向き不向きがあって、誰でもできるような仕事じゃないんです。向いてる人はコツコツできる人。同じ作業でも1日できるような。神経質すぎる人もなかなか前に進めないので、その辺りのバランスが取れる人が向いてると思う。」</paragraph>
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<h1>素材と技術が調和する麗しさ</h1>
<paragraph>漆芸は、各工程ごとに視点の異なる細やかな配慮が必要です。
例えば蒔絵の作業は時間をかける慎重さが求められるが、塗りの作業はある程度スピード感を要します。<br />
求められることをしっかりと認識しながら作業に取り組む必要があるため頭の切り替えが必要だと大坪さんは言います。<br /><br />

漆や蒔絵だけではなく、いろんな素材と組み合わせて作品を作ることも少なくありません。<br />
新作の企画は、図案をラフスケッチして、どの部分に漆を塗るか、蒔絵を施すか、どの素材を使うかなどを決めながらイメージを固めていきます。</paragraph>
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<paragraph>個展で出展した香合は、漆、蒔絵、貝と様々な素材を融合させて仕上げました。<br />
梨地という金粉の斑点模様が梨の皮に似ていることに由来する蒔絵の技法も用いて、サギの部分は白蝶貝を削り形作っています。<br />
形作る作業はとても細かい作業です。まずは貝をプレート状にし、湾曲してる部分を砥石で研ぎ、平にしてから意図する形に整えていくのです。<br />
他にも嘴の部分は黒蝶貝を使うなど、部位によって様々な素材を組み合わせて、技術を結集しています。</paragraph>
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<photo src='https://krlazajynxwq6dfb.public.blob.vercel-storage.com/maker/0d8abd5f-cc4e-4128-96cc-8d72f4c54fad-P9GIH9qg412zfdXvggV2Wi3T5qPqNM.jpg'></photo>
<photo src='https://krlazajynxwq6dfb.public.blob.vercel-storage.com/maker/ade5eadf-32b3-411a-aee4-a7640d0f88d7-oWw39n4DNEUjIBWtEie5cguViXZb9e.jpg' caption='貝を使用する際は、意匠の形を作りやすいようにまずはプレート状に削り出すところから始まる。非常に細かい作業で、熟練の技術を要する。'></photo>
<paragraph>大坪さんは、夜光貝に蒔絵をしてみるという試みにも挑戦中です。
「有職文様（ゆうそくもんよう）という花を抽象化した文様を石や珊瑚などの素材や蒔絵を組み合わせて作ろうと考えています。<br />
花びらの部分が白蝶貝、その上に蒔絵を施していく予定とのこと。<br /><br />

貝に蒔絵をのりやすくするためには、一度漆を塗って約100度のオーブンで焼き、蒔絵を貝に定着させます。昔から鎧に漆を塗る際にも用いられていた「焼き付け」という工程です。</paragraph>
<photo src='https://krlazajynxwq6dfb.public.blob.vercel-storage.com/maker/06946fc8-d460-4944-9f41-ab5d75485496-gZjYsvg3Ruix9O813p2iHf9dYulQry.jpg' caption='試作中の「有職文様」。'></photo>
<photo src='https://krlazajynxwq6dfb.public.blob.vercel-storage.com/maker/c1573932-87a5-40b7-9e03-d301aae3d36e-C93xJsR2Jhe56nK7C95rhxFHFp8QgF.jpg' caption='素材として使用した夜光貝。'></photo>
<paragraph>近頃は「うるはしリング」という漆を塗ったリングのブランドも展開しています。<br />
ブランド名の由来は、「清らかで調和がとれた美しさ」や「優雅さ」を表す「うるはし（麗し)」。「うるはし」という言葉は、「うるし」の語源でもあります。響きや意味が「漆」という素材と技術に託されています。<br />
麗しき美しい繋がりを現代にも甦らせたいという思いから誕生したブランドを通して若い世代にも漆の魅力を伝えています。</paragraph>
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<photo src='https://krlazajynxwq6dfb.public.blob.vercel-storage.com/maker/bea7bd40-096f-4b53-bb6a-d917d5560379-jdK6XmRKl0vnfWcnyh7hBagjCWqKwc.jpg' caption='「うるはしリング」。'></photo>
<h1>漆に触れて1000年前と繋がる</h1>
<paragraph>「非効率だけど素材を感じながらできるだけ手作業で作ることで、お客さんにちゃんと説明できるんです。そしたらお客さんもより大事に使ってくれるし、価値も感じてくれると思います。」<br />
3Dプリンターや自動切削機が登場し進化している現代では、手仕事の意味や人間だからこそできることを考えて手作業にこだわっています。<br />
工程を省くことなく目に見えない部分も、お客様に恥じない細やかな仕事ぶりです。</paragraph>
<photo src='https://krlazajynxwq6dfb.public.blob.vercel-storage.com/maker/c45057eb-709a-4281-a4b4-1765863f13ec-mrCIkWZxv4rsvNNyXqrTG38kMUXuxp.jpg' caption='蒔絵を施す様子。'></photo>
<paragraph>「昔は漆を管理しようというか、言うことをきかせるかのように色々無理なこともしていました。10年くらい経験を積んでくると、自分が漆の方に合わせて、思い通りに作業ができるようになって、だんだん付き合い方がわかってきましたね。」<br />
焦らずになるべく平常心で、精神面や感情面で波を作らないように心がけていると語る大坪さん。</paragraph>
<photo src='https://krlazajynxwq6dfb.public.blob.vercel-storage.com/maker/c636d2a1-4e53-4243-83f0-480cadf5a68f-holpxqNowzIylAWbrSNODQaUlNEKuj.jpg'></photo>
<paragraph>伝統技法での制作を通して、先人が何を考えて、どのように知恵を積み上げてきたのかを垣間見ることもできるのだとか。<br />
言葉では容易に伝えられず、試行錯誤して手で覚えていくことが多い伝統技法が、1000年もの間継承し続けられていることは、不思議で神秘的だと大坪さんは言います。<br />
「使っている素材や道具は平安時代から同じ。昔の人の思いや考えに耽ると、繋がっているような気がします。追体験してるような。そういうことが楽しいですね。手仕事はロマンも感じられるし、漆器を手に取った方々にも伝えたい。それが日本人としてのアイデンティティや、心の豊かさとかものを大事にすると言うことにつながってくるような気がします。」<br /><br />

現在大坪さんは、触れるオブジェを構想中。<br />
「漆は触ったり、使った時が大事。触っても飾っても楽しめるものを作っていきたいです。」</paragraph>

金沢漆器作家の大坪直哉さんが営む漆芸大坪工房。「先人が何を考え、どのようにして知恵を積み上げてきたのかを、伝統技法による制作を通して知りたい。」という大坪さんは、伝統技法と独自の感性を融合させた作品で、現代に漆の魅力を伝え続けています。