夫婦で繋ぐ三代目の歴史
昭和30年創業の晋六窯では三代に渡り、
日々の生活に根ざした京焼のお茶碗や急須などを製造しています。
晋六窯の名は初代 辻 晋六さんの名前から名付けられました
。
辻 晋六さんは陶磁器の釉薬(鉱物)の化学的な変化に興味を持ち、陶磁器の仕事を始められ熱心に開発されたことから、独自の釉薬・デザインが晋六窯の強みとなっています。
三代目 京谷 美香さんは、父 勘之さんや祖父 晋六さんの仕事を身近に触れながら幼少期を過ごすも当初は銀行に就職。
代々受け継がれてきた陶磁器の釉薬や様々なデザインを守っていくため、誰かが家業を継がなければならないのではないかと考え陶磁器の専門学校(京都府立陶工訓練校:現在は京都府立陶工高等技術専門学校<愛称 京都陶芸大学校>)に通い、現在三代目として晋六窯の代表を務められています。
京都府立陶工職業訓練校で浩臣さんと出会い結婚。浩臣さんは卒業後、煎茶道のお手前に使用する器つくりをしている窯元に就職。その後、晋六窯の職人となり、先代の背中から学んだ晋六窯の焼き物を繋いでいます。
夫婦それぞれ業務にあたりながらも完全に分担作業として切り離さずに、互いに意見を言いながら作ることもあるのだとか。
例えば浩臣さんが作った調理道具に対して、主婦目線の美香さんの意見が入ることでブラッシュアップしていくこともあるそうです。
“意見がぶつかるというよりも「確かに。」という感じ”と浩臣さん。
夫婦それぞれの視点と技術を持ち寄りながら作品作りに取り組まれています。
京都の番茶文化から生まれたペリカン急須
器作りの際は「菊もみ」と呼ばれる技法で土を揉むことで空気を抜き陶土を整えます。
捏ね跡が菊の紋様になるようにねじりながら揉むことで、ろくろに据えた時にある程度粒子が一定方向を向き品物作りがしやすくなるそうです。
“空気が入るとちぎれやすくなり、高温で焼くので空気が入っていると窯の中で空気が爆発することもあります。また粒子の向きにばらつきがあると、ろくろの手さばきも力づくになってしまう”と浩臣さん。土を整える工程は重要なのです。“土揉み3年、ろくろ10年、焼き一生”との言葉もあるのだとか。
京都は粘土の取れない土地柄、使用する粘土は昔から隣の滋賀県、兵庫県や岡山県などから仕入れ、それぞれの窯元が絵付けや形、釉薬でそれぞれが趣向を凝らし制作してきたことが、京焼・清水焼の一つの特徴です。
”陶器は「土・火」の自然の恵みより完成します。原材料を産出しない京都では受注少量生産し、自然の恵みを大切に使ってきました。「民芸」の大らかさと素朴さ、そして京焼の優雅さを併せ持った陶器の制作を心がけています。
陶器は脇役で、お料理が主役。いかに料理を引き立てるかが重要です。生活を豊かに、人々の生活に根付き受け継がれ、毎日の食卓が楽しくなるような器づくろを心がけています”と語られる美香さん。
晋六窯では”人が毎日使うものは、人の手で丁寧に作られたものを届けたい”という思いで制作されています。
”祖母が料亭の娘だったこともあり、祖父や父は割烹食器をよく制作していました。”と美香さん。
晋六窯の代名詞になっているペリカン急須®︎も”詰まりやすさを解決できないか”とのお茶屋さんの要望から生まれました。
目詰まり解消を図り先々代の晋六さんが穴をたくさんあける為に口を大きくしたところ、まるで「ペリカン」のような口になったことから「ペリカン急須®︎」と名付けられました。
京都の文化に欠かせない番茶は葉が大きくどうしても詰まりやすいもの。その問題をペリカン急須®︎特有の大きな注ぎ口が解決します。
口が大きいからと言って、ドバッと出るわけではなく、真ん中に集まって出てくるので注ぎやすく、蓋を口に乗せて置くこともできて使い勝手の良さが好評なペリカン急須®︎は実に60年に渡り多くの方に愛されてきました。
“一般的な急須は2煎目を入れる際、ぐるぐる回したりするけど、それをすると濁りや苦味が出る。でもペリカン急須は口が大きいので口からお湯を入れることで偏った茶葉が戻り、回す必要がなくなるんですよ”
安価な商品ではないが、自宅で過ごす時間が増えたコロナ禍を契機に、20代の若い方でも日常生活を良くしようとこの急須を手に取る方も増えたとのこと。
“手間暇かかるけど急須で入れた時の香りや仕事の合間のリセットがあったりするのかな。
ペリカン急須を作ることで、京都の番茶文化の継承に関われたらなと思っています。”と微笑む美香さん。
慌ただしい日々も、お茶を淹れるひとときでほっと一息つけそうですね。
お客さまの声に応えた新シリーズPELICAN®︎
様々な年代の方に、おうちでゆっくりお茶の時間を楽しんで欲しいとの思いからペリカン急須®︎を現代風にアレンジした新シリーズ「PRELICAN®︎」も展開されています。
”お茶は香りやお茶を入れる時間を楽しめるだけでなく、その時間を持つことでリラックス、リフレッシュ、リセットしてくれる時間になると思うんです”と美香さん。
印象的なマットな白色は晋六窯の陶芸体験教室に通う女性のお客さんの要望を受け、元々展開していたマットな緑色から酸化コバルトという発色剤をを抜くと白になるかもと予想し、試してみるとマットな白に仕上げることができたそう。
“お客さんの要望を聞いて試してみることも多いので、問題点はお客さんに解決してもらっている部分もあるかもしれない。”と浩臣さん。
マットホワイトに様々な発色剤を加え試行錯誤しながらアレンジし、若い女性向けにティファニーブルーのような色を目指しマットブルーも展開。
新たな試みの際は、発色剤のパーセンテージや焼成温度で縮みや質感の具合が変わるため、各工程で細かな微調整が要されます。
ペリカン急須®︎を現代風にアレンジしたPELICAN®︎シリーズ。
“焼き物業界の常識で考えるとマット系の釉薬ならマット系の薬同士をかけあわせるけど、マット系のものと光沢のあるものを掛け合わせて欲しいとの要望があったりする。二重になった時にどんなふうに出てくるのかがわからない。要は化学反応になるので。マット系同士ならばこんなふうになるなと感覚的にわかるが、マット系と光沢はわからない。自分たちじゃやらないことだから勉強になりますね。”と話す美香さん。
焼き物の常識にとらわれないお客さまの声に耳を傾け商品に活かされています。
「間抜け」くらいがちょうどいい
手作りということを大切にしている晋六窯。
“手作りは温かみもあるし使いやすい。手作りは全て同じに作れるわけではなく、微妙なずれや歪みがでたりする。でもそれでいいと思っている。器は完璧すぎると息が詰まる。言い方は悪いですけど「間抜け」くらいがちょうどいい。一生懸命やった上でのどうしようもない間抜けさ。歪み。その方が使っていて落ち着くのかなと思う。”
“お皿も、きれい!で買うのではなく、なんか寂しいな、ちょっと何か足らないなくらいで買った方が、料理を盛り付けて、テーブル周りのレイアウト、一緒に食事をする相手がいて初めて完成になる。そういう意味での間抜けくらいがちょうどいい。”と語る浩臣さん。
京谷さん夫婦の手からうまれるあたたかな間抜けさが日々の暮らしを引き立てます。