夢は150年続く家業の「畳屋」
”将来の夢は畳屋を継ぐこと”
小柳畳商店5代目 小柳竜士さんは、幼稚園の頃から文集に記していたそうです。
自宅のすぐそばに畳作りの作業場があったため日常的に父と祖父の手伝いをし、面白がりながら遊び感覚で畳作りに触れてきたそうです。高校卒業後は畳学校へ通いつつ、学校と提携している畳屋で3年間働きながら学び、卒業後21歳からは4代目の父と共に家業を支えてきました。
竜士さんの言葉には父親へのリスペクトとこれからの畳の在り方への想いが滲みます。
“畳離れは実感しているが、畳は日本の気候にあった最高の床材だからこそ、もっと畳文化を伝えていきたい”と意気込む竜士さん。
創業150年を迎えた小柳畳商店では、確かな技術で仕上げる住宅用の畳に加えて、畳を用いた椅子やスマートホンケースなど従来の畳の概念に捉われない製品を製作し畳の魅力を伝えています。
空間に合わせて作る一枚の畳
畳は専用の機械と手作業を組み合わせて作り、1日あたり20枚程を仕上げています。
材料のい草には国産と中国産があり、国産の9割は熊本県で生産されています。
国産のい草の特徴は、ヴァニリンというリラックス成分によるバニラに近い上品で柔らかい癒される香り。また綺麗に揃った色や太さ、目が詰まった丈夫さは厳選されて作られた国産ならではの魅力です。発注元の要望や用途に合わせて上質な国産と安価な中国産それぞれを使い分けています。
住居用の畳は部屋の間取りに合わせて作り、部屋の一角に柱がある場合には、手作業で柱に合わせた形にすることもあるそうです。
畳の厚みを手で縫っていくのは、非常に力が入り、汗だくになりながらの作業です。
“畳作りで一番気を使うところはサイズ感。”と語る竜士さん。
“畳を入れる和室の寸法を測り、枠内に隙間なく綺麗に収まるようにしないといけない。その感覚を掴むまでに3年くらいかかった。”
仕上がった畳が部屋にぴたりと綺麗に収まる様を見ると嬉しくなるそう。
お客様も美しい畳の仕上がりに喜ばれる瞬間です。
現代の暮らしに活かす畳の魅力
小柳畳商店では、住居用の畳のほか、畳を身近に取り入れられるような商品づくりにも取り組んでいます。
ユニークなものの一つがレーザーで刻印する“畳の命名書”。
仏壇前の畳についた線香を落とし焦がした跡から閃いたそうです。
畳をカットしカバーを作り土台を包む製法で作った「座・あぐら」という畳椅子は正座した足が痺れないようにするために考案。
同様の製法で丸椅子も製作し洋室にも畳を取り入れられる一品が出来ました。
暮らしの中で得たヒントから新たな畳製品をうみ、畳を生活の中に落とし込んでいます。
素材も従来のい草の他、色のバリエーションが豊かで色褪せがなく、カビが生えない和紙畳を使用した商品も多数展開しています。
アイデア豊かな製品づくりとと和紙畳の活用で、現代の暮らしに寄り添うデザイン性の高いモダンな畳を提案しています。
畳を生活の一部に
“家業を継ぐ時は家に和室が少なくなっている時で、まずいと感じていた。”
竜士さんは畳離れの危機感を感じつつ、若い世代にも畳の魅力を伝えようと努めています。
“畳文化がなくなりつつある上で、“配置”という点での魅力の伝え方もある。”と竜士さんは言います。
例えば新築やリフォームの際には小上がりを作り畳を取り入れることを提案したり、“この部屋には低い家具を配置したほうが広く見えるし、畳も合いますよ”などと助言をしたりと空間を通して畳の意義を伝えています。
畳が家にない世代にも畳の良さや店のことを知ってもらうためインスタグラムでの発信にも
力を入れています。“案外若い世代(30代)でも畳に魅力を感じてくれる人は多い。ある程度若い層でも畳を使い出している実感はある。”と手応えを語る竜士さん。
“もっと畳を普及させて後世に受け継いでもらえるようにしたい。これまでの畳の使い方とはまた違う形で発信をしていきたい。もっと畳を生活の一部としてポピュラーなものにして、次の後継者が苦労しないようにしていきたいと思っている。”
現代の暮らしに馴染む畳の在り方を追求されています。
取材:新 拓也 撮影:森山ゆりこ 文:下野 恵美子