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工芸レポート
刀剣鍛錬の技法と消費者目線で求める最適解
島根県安来市にある鍛冶工房弘光は、江戸・天保の時代から200年近く鍛冶業を営んでいます。
昔ながらの刀剣鍛錬の技法をいかしながら現代の生活に寄り添った商品を創作。
11代目の小藤宗相さん、10代目の父 小藤洋也さんをはじめ職人4名の手作業で仕上げられる作品は燭台や花器、フライパンなど多岐にわたります。

工房に入る際は「火の神様」に事故がないようにと必ず一礼するそう。
工房に入る際は「火の神様」に事故がないようにと必ず一礼するそう。
工房内の様子。
工房内の様子。
11代目宗相さんは、信州大学経済学部卒業後、東京の企業勤務や島根での美術館勤務などを経て鍛冶職人の道へ。異業種経験により培われた消費者の視点を鑑みた提案やプロモーションは弘光の魅力の一つとなっています。宗相さんは直接お客様と対話し要望を聞き取り、 受注の入り口とアウトプットを担当。適宜その場でデッサンしながら、“もっとこういう形がいいですか?長さはこれくらいですか?”などと話しながらデザインを起こしたりするそうです。時には相手の要望をそのまま作るのではなく、“そうしたいのであればもっとこの方がいいのでは?”などと提案することも。相手が期待するニュアンスを汲み取り最適な形で実現するため、時に数が必要になれば宗相さんがプロトタイプ制作を担い、中間の制作過程を分業する体制でも取り組まれています。
昔ながらの鍛冶仕事で生み出す一点もの
現代はプレスや機械加工を施した鉄製品が多数を占める中、鍛治工房弘光では木炭による鍛造にもこだわり、昔ながらの技術を繋いでいます。 鉄には叩く“鍛える”作業を行うことで鉄の表面が均一化され、丈夫になっていく特徴があります。
また鍛えることで酸化皮膜(金属表面が酸素と反応することによって生じる保護膜)が飛び、錆びにくくなります。
工程としては、まず鉄を火で熱し、熱いうちに水をちらし急冷。冷やすと一気に収縮して酸が飛び剥離します。次に剥離して浮いてきたところを叩いて剥がします。“職人の手には叩くと鉄自体に粘りが出るような感覚がある”と宗相さんは言います。
鉄の状態を見ながら何度も熱しては、叩いたり曲げたりする作業を繰り返し成形していく。
鉄の状態を見ながら何度も熱しては、叩いたり曲げたりする作業を繰り返し成形していく。
また鍛冶仕事は、季節による作業場の寒暖差や陽入り方による見え方の違いで作業のしやすさが変わるそうです。鉄を熱し柔らかいうちに叩いたり曲げたりして成形しますが、鉄は冷めよう冷めようとし、冷めると絶対に動かないとのこと。大体800〜1000度のうちに作業する必要があるが、寒い冬にはすぐに冷めてしまいます。一気に熱くしてしまうと今度は鉄が溶けてしまうため、何回も何回も繰り返し熱しながら作業する必要があるそうです。
熱いうちに水をかけて急冷することで鉄が収縮、酸化し剥離する。剥離したところを叩き、膜を剥がしていく。
熱いうちに水をかけて急冷することで鉄が収縮、酸化し剥離する。剥離したところを叩き、膜を剥がしていく。
夏は鉄の温度は下がりにくいものの、火を扱う現場なので、夏は夏で過酷な中作業されています。 鍛治工房弘光で用いる昔ながらの木炭の火は、送風による火力の調整がしやすいので、季節などの外的要因で作業のしやすさが変わる現場にも適しています。 接合においても全て溶接でするのではなく、特別溶接が必要のないところは昔ながらの「かしめ留め」によって仕上げています。 その時々に応じて一つ一つの工程を昔ながらの手作業で行うため、同じように作ったとしても個性が生まれます。手仕事から生まれる唯一無二の個性が一点一点の魅力となっています。
皮膜を飛ばす絶妙な加減が一つのデザインにもなっている。
皮膜を飛ばす絶妙な加減が一つのデザインにもなっている。
現代にフィットする鉄製品
“当初は催事に出れば出るほど赤字だったが、徐々にお客様の需要を拾えるようになった。”と宗相さん。時々百貨店の各階をぐるぐる回りトレンドをキャッチしてアイデアの種を得ているそうです。
商品そのものだけでなくパッケージや、商品写真の撮影やインスタでの発信も重要視されており、“フィットするやり方でフィットする層にフィットするクオリティのものを出すという一番理想が見えてきた。モノの価値だけでなく売る力「伝える力」が職人にはすごく必要と思っている。”と続けます。
11代目の小藤宗相さん。
11代目の小藤宗相さん。
今宗相さんが強い関心を抱くのは、インバウンドのお客様に現場を直接みてもらうこと。 昔ながらの日本の手仕事を目の当たりにした海外の方のリアクションは、職人側のモチベーションの向上にも繋がっているそうです。
手作業による個性を活かして展開するフライパンのオリジナルブランド「鍛月」の可能性にも言及されます。 「鍛月」のフライパンは熱伝導がいい鉄の性質により、中はふっくら、周りはパリッと焼けるため、お肉料理をはじめ野菜やトーストなどオールマイティに使えるとのこと。 “これで焼いた食材は本当に美味しい。おいしい空間を作るための任務を担っていると思っている。”と語られ、フライパンが仲立ちになりフライパンで焼く食材も売れるというように美味しさの輪が波及していくことも思い描かれています。
「鍛月」のフライパン。
「鍛月」のフライパン。
今後の展望としては、“工房にどんどん来てもらいたいし、新作も作りたいが、まずは今ある作品をプロダクトとしてブラッシュアップすることと、合わせて“みせる空間”も変えてみたい”と宗相さん。 “うちの作品は燭台にしてもフライパンにしても必需品じゃなくて、趣味の道具でもあり、使い手の目線で遊んでくれたらいいと思う。もちろんお客様の要望に合わせて作品はつくるけれど、どうぞ自由に楽しんでもらえたら” 使い手に委ねられた鍛冶工房弘光の鉄製品が現代に馴染んでいきます。
取材:新 拓也 撮影:森下 大喜 文:下野 恵美子
鍛冶工房弘光
locationPin島根県
#鍛冶
200年近く鍛冶業を営む鍛冶工房弘光。刀剣鍛錬の技法をいかしながら燭台や花器、フライパンなど多岐にわたる作品を手作業でつくられています。顧客の要望を聞きながら従来の枠にとらわれない、弘光ならではの新しい作品を生み出し続けています。
体験OK
最終更新日 : 2024/06/25
代表者
小藤宗相
創業年
1830年
従業員
4
所在地
〒692-0623 島根県安来市広瀬町布部1168−8
制作・商品開発を依頼する
「わたしの名品帖」で取り扱っている各工芸メーカーは、独自の光る技術を持っています。 そんな工芸品の技術力を活用したOEMや商品開発などをご検討のお客様はお気軽にご相談ください。
鍛冶工房弘光
locationPin島根県
#鍛冶
200年近く鍛冶業を営む鍛冶工房弘光。刀剣鍛錬の技法をいかしながら燭台や花器、フライパンなど多岐にわたる作品を手作業でつくられています。顧客の要望を聞きながら従来の枠にとらわれない、弘光ならではの新しい作品を生み出し続けています。
体験OK
最終更新日 : 2024/06/25
代表者
小藤宗相
創業年
1830年
従業員
4
所在地
〒692-0623 島根県安来市広瀬町布部1168−8
工芸レポート
刀剣鍛錬の技法と消費者目線で求める最適解
島根県安来市にある鍛冶工房弘光は、江戸・天保の時代から200年近く鍛冶業を営んでいます。
昔ながらの刀剣鍛錬の技法をいかしながら現代の生活に寄り添った商品を創作。
11代目の小藤宗相さん、10代目の父 小藤洋也さんをはじめ職人4名の手作業で仕上げられる作品は燭台や花器、フライパンなど多岐にわたります。

工房に入る際は「火の神様」に事故がないようにと必ず一礼するそう。
工房に入る際は「火の神様」に事故がないようにと必ず一礼するそう。
工房内の様子。
工房内の様子。
11代目宗相さんは、信州大学経済学部卒業後、東京の企業勤務や島根での美術館勤務などを経て鍛冶職人の道へ。異業種経験により培われた消費者の視点を鑑みた提案やプロモーションは弘光の魅力の一つとなっています。宗相さんは直接お客様と対話し要望を聞き取り、 受注の入り口とアウトプットを担当。適宜その場でデッサンしながら、“もっとこういう形がいいですか?長さはこれくらいですか?”などと話しながらデザインを起こしたりするそうです。時には相手の要望をそのまま作るのではなく、“そうしたいのであればもっとこの方がいいのでは?”などと提案することも。相手が期待するニュアンスを汲み取り最適な形で実現するため、時に数が必要になれば宗相さんがプロトタイプ制作を担い、中間の制作過程を分業する体制でも取り組まれています。
昔ながらの鍛冶仕事で生み出す一点もの
現代はプレスや機械加工を施した鉄製品が多数を占める中、鍛治工房弘光では木炭による鍛造にもこだわり、昔ながらの技術を繋いでいます。 鉄には叩く“鍛える”作業を行うことで鉄の表面が均一化され、丈夫になっていく特徴があります。
また鍛えることで酸化皮膜(金属表面が酸素と反応することによって生じる保護膜)が飛び、錆びにくくなります。
工程としては、まず鉄を火で熱し、熱いうちに水をちらし急冷。冷やすと一気に収縮して酸が飛び剥離します。次に剥離して浮いてきたところを叩いて剥がします。“職人の手には叩くと鉄自体に粘りが出るような感覚がある”と宗相さんは言います。
鉄の状態を見ながら何度も熱しては、叩いたり曲げたりする作業を繰り返し成形していく。
鉄の状態を見ながら何度も熱しては、叩いたり曲げたりする作業を繰り返し成形していく。
また鍛冶仕事は、季節による作業場の寒暖差や陽入り方による見え方の違いで作業のしやすさが変わるそうです。鉄を熱し柔らかいうちに叩いたり曲げたりして成形しますが、鉄は冷めよう冷めようとし、冷めると絶対に動かないとのこと。大体800〜1000度のうちに作業する必要があるが、寒い冬にはすぐに冷めてしまいます。一気に熱くしてしまうと今度は鉄が溶けてしまうため、何回も何回も繰り返し熱しながら作業する必要があるそうです。
熱いうちに水をかけて急冷することで鉄が収縮、酸化し剥離する。剥離したところを叩き、膜を剥がしていく。
熱いうちに水をかけて急冷することで鉄が収縮、酸化し剥離する。剥離したところを叩き、膜を剥がしていく。
夏は鉄の温度は下がりにくいものの、火を扱う現場なので、夏は夏で過酷な中作業されています。 鍛治工房弘光で用いる昔ながらの木炭の火は、送風による火力の調整がしやすいので、季節などの外的要因で作業のしやすさが変わる現場にも適しています。 接合においても全て溶接でするのではなく、特別溶接が必要のないところは昔ながらの「かしめ留め」によって仕上げています。 その時々に応じて一つ一つの工程を昔ながらの手作業で行うため、同じように作ったとしても個性が生まれます。手仕事から生まれる唯一無二の個性が一点一点の魅力となっています。
皮膜を飛ばす絶妙な加減が一つのデザインにもなっている。
皮膜を飛ばす絶妙な加減が一つのデザインにもなっている。
現代にフィットする鉄製品
“当初は催事に出れば出るほど赤字だったが、徐々にお客様の需要を拾えるようになった。”と宗相さん。時々百貨店の各階をぐるぐる回りトレンドをキャッチしてアイデアの種を得ているそうです。
商品そのものだけでなくパッケージや、商品写真の撮影やインスタでの発信も重要視されており、“フィットするやり方でフィットする層にフィットするクオリティのものを出すという一番理想が見えてきた。モノの価値だけでなく売る力「伝える力」が職人にはすごく必要と思っている。”と続けます。
11代目の小藤宗相さん。
11代目の小藤宗相さん。
今宗相さんが強い関心を抱くのは、インバウンドのお客様に現場を直接みてもらうこと。 昔ながらの日本の手仕事を目の当たりにした海外の方のリアクションは、職人側のモチベーションの向上にも繋がっているそうです。
手作業による個性を活かして展開するフライパンのオリジナルブランド「鍛月」の可能性にも言及されます。 「鍛月」のフライパンは熱伝導がいい鉄の性質により、中はふっくら、周りはパリッと焼けるため、お肉料理をはじめ野菜やトーストなどオールマイティに使えるとのこと。 “これで焼いた食材は本当に美味しい。おいしい空間を作るための任務を担っていると思っている。”と語られ、フライパンが仲立ちになりフライパンで焼く食材も売れるというように美味しさの輪が波及していくことも思い描かれています。
「鍛月」のフライパン。
「鍛月」のフライパン。
今後の展望としては、“工房にどんどん来てもらいたいし、新作も作りたいが、まずは今ある作品をプロダクトとしてブラッシュアップすることと、合わせて“みせる空間”も変えてみたい”と宗相さん。 “うちの作品は燭台にしてもフライパンにしても必需品じゃなくて、趣味の道具でもあり、使い手の目線で遊んでくれたらいいと思う。もちろんお客様の要望に合わせて作品はつくるけれど、どうぞ自由に楽しんでもらえたら” 使い手に委ねられた鍛冶工房弘光の鉄製品が現代に馴染んでいきます。
取材:新 拓也 撮影:森下 大喜 文:下野 恵美子
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