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工芸レポート
千年の歴史と品格、神仏と向きあう三方作り
皆さんは「三方(さんぼう/さんぽう)」という道具をご存知でしょうか?
主に神事において、供物を載せるための台のことで、胴の三方面に刳形(くりかた)と呼ばれる穴が空いているため三方と呼ばれます。 一般的には、正月の鏡餅やお月見で団子を供える際に使う木製の台がイメージできます。
上部分が折敷(おしき)、下部分が筒胴(つつどう)。穴のない方を神仏に向けてお供えする。
上部分が折敷(おしき)、下部分が筒胴(つつどう)。穴のない方を神仏に向けてお供えする。
名古屋市熱田区にある株式会社岩田三宝製作所(以下、岩田三宝)では、江戸時代中期の頃より三方をはじめとした伝統的な神具作りを代々受けつぎながら、その工法や技術を活かした新しい日用品の開発など、様々な商品開発にチャレンジしています。
7代目として家業を継いでいる岩田康行さんに取材に応じていただきました。
幼い頃から作業場でよく遊んでいたという岩田さん。現場で働く職人さんに囲まれながら、日常的に神具作りの環境に触れ、仕事の面白さや大変さなどを学んでいたそうです。
岩田三宝製作所7代目 岩田 康行さん
岩田三宝製作所7代目 岩田 康行さん
最高級のヒノキ材を追求する
岩田三宝では江戸時代から由緒ある木曽ヒノキを用いて、長きにわたって三方を作り続けてることもあり、国内の名だたる神社仏閣から重宝されているそうです。
今回は日用品として販売しているトレーの工程を見せていただきました。形は三方とは違いますが、三方作りのノウハウがそのまま活かされています。

元々良質なヒノキを使っていますが、作っていく中でその部位の選定が追求されていきます。節が見えているものはもちろん、表面が赤っぽく色づいていたり、木目が少しでも流れてしまっているものは使いません。綺麗な木目になるよう「柾目(まさめ)挽き」で贅沢に丸太からカットされた板材が保管されていますが、岩田さんは、保管している木材から半分も使えたらいい方だと、何枚も板をめくりながら選定の難しさを語ってくれました。
会社の屋上では雨水を利用して木の油分を洗い流している。
会社の屋上では雨水を利用して木の油分を洗い流している。
素人目にはどれも綺麗に見えるヒノキ板の数々
素人目にはどれも綺麗に見えるヒノキ板の数々
製材の工程で木材をカットする際も、選定した板からさらに良質な部分だけを残して、目的の寸法を切り出します。カット後はトレーの木枠の形に曲げるために、切断しないギリギリの深さまで溝を入れます。曲げる際に木が折れるのを防ぐために、一度お湯に浸して柔らかくします。頃合いになれば一思いに曲げて両端を圧着、乾燥後に木枠と台を接着して完成です。

また、三方をはじめとした商品の多くは基本的には塗装を行いません。 岩田さんは「神様の前で使われる道具において、塗装を施すということは神様に対して嘘をついていると捉えられる。だからいかに白木や素地で美しく作り上げるか試される、そんな真っ向勝負を求められる世界なんです」と話します。
トレーの縁に当たる部分。かんなをかけるとヒノキ特有の美しい艶が出る。
トレーの縁に当たる部分。かんなをかけるとヒノキ特有の美しい艶が出る。
1mm程度で繋がった溝。水分を含むと曲げられるのはヒノキの特性だ。
1mm程度で繋がった溝。水分を含むと曲げられるのはヒノキの特性だ。
乾燥したらトレー本体と接着して完成。
乾燥したらトレー本体と接着して完成。
貴重な材料を余すことなく使うために
品質の高い商品を生み出すには、その反面、多くの材料ロスが出ることを意味します。 もとより、樹齢300年の貴重な木材。大量に出る木屑を以前は焼却していたこともあり、岩田さんは環境的な課題を日々感じていたそうです。
作業工程で発生するかんな屑は、元が選りすぐりの材料なので綺麗な木目をしている。
作業工程で発生するかんな屑は、元が選りすぐりの材料なので綺麗な木目をしている。
しかし今では様々なアイデアを活かして、ヒノキ材のアップサイクルに取り組まれています。かんな屑を切り絵の要領で、可愛らしい花びらに形取った「アロマディフューザー」はその一つです。同じヒノキから抽出した精油を直接染み込ませて、自然に揮発する香りを楽しむことができます。

薄い材料だから水に浸せば折り紙のように扱えるし、乾けば樹皮側からくるくる反っていくクセがある。この性質を花が開く形にそのまま利用したという、なんとも技ありのアイデアです。しかも商品包装の緩衝材にもかんな屑を敷き詰め、余すことなく再利用しています。 当初は岩田さんの奥様や、ご友人の協力のもと花びら作りをスタート。試作品をFacebookに投稿すると、それを見た人が新たに提案をくれたりと反響があったそうです。
「メーカーとしての責任ですね、せっかくのヒノキをただの煙にしてはいけない」と岩田さんは環境に対する考えを語ってくれました。
一輪ずつ丁寧に手作りされたアロマディフューザー。
一輪ずつ丁寧に手作りされたアロマディフューザー。
作業場では女性陣がいろいろなアイデアを出し合い、活気に満ちていた。
作業場では女性陣がいろいろなアイデアを出し合い、活気に満ちていた。
取材当時、入社して1年のスタッフさん。この作業に関しては周りから「先生」と呼ばれるほどの腕前。
取材当時、入社して1年のスタッフさん。この作業に関しては周りから「先生」と呼ばれるほどの腕前。
三方、和の心と共に世界へ。
岩田三宝は海外に対して自社商品の新しい提案を試みるべく、プロダクトデザイナーで有限会社クルツ代表の島村 卓実さんと、NUSA(ヌサ)という新ブランドを、共同で立ち上げられています。
先ほど紹介した木曽ヒノキの確かな目利きと、職人が手作業で丹精込めて加工するという価値はそのままに、三方の工法を応用した弁当箱やトレー、テーブルといった日常生活でも利用できる様々なアイテムを、プロダクトデザインの目線と合わせて製作しています。

「伝統産業は、時代の流れと共に日常使いをしながら100年以上もの歴史を歩んでいます。だから江戸時代の使い方を、今の令和で全く同じように使うのは無理があると思ったんです。だからこそ伝統的な工法は守った上で、今の職人は今の時代にフィットした提案をする必要があると思っているんです」

三方は根底から考えると「感謝」を伝える道具だとも言えます。 日本古来から受け継がれる、感謝の文化を宿した伝統工芸「三方」が、形は違えど海外にまで進出し、少しずつ受け入れられ始めています。そんな時代が来るとは、もしかするとこれまでは誰も想像できなかったかも知れません。岩田三宝はその歴史を変える1歩をすでに踏み出しているのではないでしょうか。
取材・撮影:森下 大喜
岩田三宝製作所
locationPin愛知県
#仏壇・仏具・神具-三方
神事において、供物を載せるための台「三方」を製作する岩田三宝製作所。 従来の三方だけではなく、現代の暮らしに受け継がせたブランド「NUSA」を立ち上げるなど、三方の新しい可能性を広げ続けています。
最終更新日 : 2024/06/13
代表者
岩田 康行
創業年
1974年
従業員
11
所在地
〒456-0014 愛知県名古屋市熱田区中田町6−9
制作・商品開発を依頼する
「わたしの名品帖」で取り扱っている各工芸メーカーは、独自の光る技術を持っています。 そんな工芸品の技術力を活用したOEMや商品開発などをご検討のお客様はお気軽にご相談ください。
岩田三宝製作所
locationPin愛知県
#仏壇・仏具・神具-三方
神事において、供物を載せるための台「三方」を製作する岩田三宝製作所。 従来の三方だけではなく、現代の暮らしに受け継がせたブランド「NUSA」を立ち上げるなど、三方の新しい可能性を広げ続けています。
最終更新日 : 2024/06/13
代表者
岩田 康行
創業年
1974年
従業員
11
所在地
〒456-0014 愛知県名古屋市熱田区中田町6−9
工芸レポート
千年の歴史と品格、神仏と向きあう三方作り
皆さんは「三方(さんぼう/さんぽう)」という道具をご存知でしょうか?
主に神事において、供物を載せるための台のことで、胴の三方面に刳形(くりかた)と呼ばれる穴が空いているため三方と呼ばれます。 一般的には、正月の鏡餅やお月見で団子を供える際に使う木製の台がイメージできます。
上部分が折敷(おしき)、下部分が筒胴(つつどう)。穴のない方を神仏に向けてお供えする。
上部分が折敷(おしき)、下部分が筒胴(つつどう)。穴のない方を神仏に向けてお供えする。
名古屋市熱田区にある株式会社岩田三宝製作所(以下、岩田三宝)では、江戸時代中期の頃より三方をはじめとした伝統的な神具作りを代々受けつぎながら、その工法や技術を活かした新しい日用品の開発など、様々な商品開発にチャレンジしています。
7代目として家業を継いでいる岩田康行さんに取材に応じていただきました。
幼い頃から作業場でよく遊んでいたという岩田さん。現場で働く職人さんに囲まれながら、日常的に神具作りの環境に触れ、仕事の面白さや大変さなどを学んでいたそうです。
岩田三宝製作所7代目 岩田 康行さん
岩田三宝製作所7代目 岩田 康行さん
最高級のヒノキ材を追求する
岩田三宝では江戸時代から由緒ある木曽ヒノキを用いて、長きにわたって三方を作り続けてることもあり、国内の名だたる神社仏閣から重宝されているそうです。
今回は日用品として販売しているトレーの工程を見せていただきました。形は三方とは違いますが、三方作りのノウハウがそのまま活かされています。

元々良質なヒノキを使っていますが、作っていく中でその部位の選定が追求されていきます。節が見えているものはもちろん、表面が赤っぽく色づいていたり、木目が少しでも流れてしまっているものは使いません。綺麗な木目になるよう「柾目(まさめ)挽き」で贅沢に丸太からカットされた板材が保管されていますが、岩田さんは、保管している木材から半分も使えたらいい方だと、何枚も板をめくりながら選定の難しさを語ってくれました。
会社の屋上では雨水を利用して木の油分を洗い流している。
会社の屋上では雨水を利用して木の油分を洗い流している。
素人目にはどれも綺麗に見えるヒノキ板の数々
素人目にはどれも綺麗に見えるヒノキ板の数々
製材の工程で木材をカットする際も、選定した板からさらに良質な部分だけを残して、目的の寸法を切り出します。カット後はトレーの木枠の形に曲げるために、切断しないギリギリの深さまで溝を入れます。曲げる際に木が折れるのを防ぐために、一度お湯に浸して柔らかくします。頃合いになれば一思いに曲げて両端を圧着、乾燥後に木枠と台を接着して完成です。

また、三方をはじめとした商品の多くは基本的には塗装を行いません。 岩田さんは「神様の前で使われる道具において、塗装を施すということは神様に対して嘘をついていると捉えられる。だからいかに白木や素地で美しく作り上げるか試される、そんな真っ向勝負を求められる世界なんです」と話します。
トレーの縁に当たる部分。かんなをかけるとヒノキ特有の美しい艶が出る。
トレーの縁に当たる部分。かんなをかけるとヒノキ特有の美しい艶が出る。
1mm程度で繋がった溝。水分を含むと曲げられるのはヒノキの特性だ。
1mm程度で繋がった溝。水分を含むと曲げられるのはヒノキの特性だ。
乾燥したらトレー本体と接着して完成。
乾燥したらトレー本体と接着して完成。
貴重な材料を余すことなく使うために
品質の高い商品を生み出すには、その反面、多くの材料ロスが出ることを意味します。 もとより、樹齢300年の貴重な木材。大量に出る木屑を以前は焼却していたこともあり、岩田さんは環境的な課題を日々感じていたそうです。
作業工程で発生するかんな屑は、元が選りすぐりの材料なので綺麗な木目をしている。
作業工程で発生するかんな屑は、元が選りすぐりの材料なので綺麗な木目をしている。
しかし今では様々なアイデアを活かして、ヒノキ材のアップサイクルに取り組まれています。かんな屑を切り絵の要領で、可愛らしい花びらに形取った「アロマディフューザー」はその一つです。同じヒノキから抽出した精油を直接染み込ませて、自然に揮発する香りを楽しむことができます。

薄い材料だから水に浸せば折り紙のように扱えるし、乾けば樹皮側からくるくる反っていくクセがある。この性質を花が開く形にそのまま利用したという、なんとも技ありのアイデアです。しかも商品包装の緩衝材にもかんな屑を敷き詰め、余すことなく再利用しています。 当初は岩田さんの奥様や、ご友人の協力のもと花びら作りをスタート。試作品をFacebookに投稿すると、それを見た人が新たに提案をくれたりと反響があったそうです。
「メーカーとしての責任ですね、せっかくのヒノキをただの煙にしてはいけない」と岩田さんは環境に対する考えを語ってくれました。
一輪ずつ丁寧に手作りされたアロマディフューザー。
一輪ずつ丁寧に手作りされたアロマディフューザー。
作業場では女性陣がいろいろなアイデアを出し合い、活気に満ちていた。
作業場では女性陣がいろいろなアイデアを出し合い、活気に満ちていた。
取材当時、入社して1年のスタッフさん。この作業に関しては周りから「先生」と呼ばれるほどの腕前。
取材当時、入社して1年のスタッフさん。この作業に関しては周りから「先生」と呼ばれるほどの腕前。
三方、和の心と共に世界へ。
岩田三宝は海外に対して自社商品の新しい提案を試みるべく、プロダクトデザイナーで有限会社クルツ代表の島村 卓実さんと、NUSA(ヌサ)という新ブランドを、共同で立ち上げられています。
先ほど紹介した木曽ヒノキの確かな目利きと、職人が手作業で丹精込めて加工するという価値はそのままに、三方の工法を応用した弁当箱やトレー、テーブルといった日常生活でも利用できる様々なアイテムを、プロダクトデザインの目線と合わせて製作しています。

「伝統産業は、時代の流れと共に日常使いをしながら100年以上もの歴史を歩んでいます。だから江戸時代の使い方を、今の令和で全く同じように使うのは無理があると思ったんです。だからこそ伝統的な工法は守った上で、今の職人は今の時代にフィットした提案をする必要があると思っているんです」

三方は根底から考えると「感謝」を伝える道具だとも言えます。 日本古来から受け継がれる、感謝の文化を宿した伝統工芸「三方」が、形は違えど海外にまで進出し、少しずつ受け入れられ始めています。そんな時代が来るとは、もしかするとこれまでは誰も想像できなかったかも知れません。岩田三宝はその歴史を変える1歩をすでに踏み出しているのではないでしょうか。
取材・撮影:森下 大喜
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岩田三宝製作所
岩田三宝製作所
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