次世代へ繋ぐちょうちん一筋100年の歴史
大正10年創業、ちょうちん一筋100年の秋村泰平堂。
4代目代表を務められる秋村 敬三さんは、子どもの頃から住まいの横の工房で夜な夜な仕事に勤しまれる父の姿を、間近でみられていたことがきっかけでちょうちんの道に進まれました。
出向く先々で、ちょうちんの良さを客観的に聞くことができたことから、ちょうちんの可能性に期待が高まりちょうちんへの想いが募られたそうです。
今では「次の世代には、継ぎたいと思わせられる会社にしておきたい。ここなら思ったことができると思える会社にしたい。」と語られる敬三さん。
新旧の技術を使い分けた幅広い表現
承継当時はパソコンと共にプリンターが普及しはじめた頃で、ちょうちんの文字にも機械印刷同等の精巧さを要求されたこともあったそうです。
現在は印刷機械の性能向上に伴いプリンター印刷も用途に応じて柔軟に取り入れているものの、今なお手書きが中心とのこと。
手書きの魅力は、職人がひとつひとつ手間ひまをかける手仕事ならではの、文字のかすれや色むらなど、一点一点に生じる風合いの違いです。
敬三さん自身、職人さんの高度な技に驚いたことから、伝統的な手書き技術を繋ぐことに真摯に向き合われています。
無地のちょうちんに文字を入れていく工程は各工房の個性が強く出るポイント。ちょうちんを見たらひと目で分かるよう、ちょうちんに似合うように独自の工夫をした秋村泰平堂の職人による書体を使用しています。
手書きならではの良さを大切にされると共に、塗りの工程ではプリンター印刷の強みも活かし製作することも。
「たとえば印刷を取り入れることでSDGsの到達目標のシンボルマークように多様で多色の表現が容易になり今までにないデザインに対応できるようになる。従来の手作業の塗りと差別化しながら、ちょうちん文化全体の継承ができれば」と語られる敬三さん。
新旧の技術を使い分けることで表現の幅を広げられています。
文字職人の高倉さん。秋村泰平堂で唯一下書きなしで文字を書くことができる。
室町時代から多様な形で風情を添えるちょうちん
室町時代から続くちょうちん文化。中国から伝来したちょうちんを日本で折り畳むことができるようにした歴史があります。
ちょうちんの型も、長型ちょうちん かぶら型ちょうちん 丸形ちょうちん 小型ちょうちん 弓張型ちょうちん 小物用ちょうちん 切長ちょうちん 八寸丸ちょうちんなど様々で、オリジナルちょうちんも受注し、海外からの注文にも対応しています。
長い歴史があるからこそ多様なちょうちんを製作でき、歴史に基づく信頼は秋村泰平堂の強みです。催事やお祭り装飾用、看板用からデザイン性のある使い方や絵を入れるアートとしてのものまで用途も多岐に渡ります。例えば世界遺産の一つ東大寺の中門と南大門の両横に飾られているちょうちんも秋村泰平堂が手がけています。32枚菊の紋入りの和紙のちょうちんで、大きさは二尺五寸長で中門と南大門で長さに違いがある大作です。その他流行
ちょうちん文化と辺りを照らす秋村泰平堂
「生活の中でちょうちんを見なくなったが、僕と会えばちょうちんにレーダーが立つかもしれない。」と語られる敬三さん。
「室町時代から続く文化ってすごいですよね。途絶えさせたくなくて、文化に携わらせてもらえていること自体が嬉しい。ちょうちんを作ることで、飾ってくれる場所と共存し、ちょうちん文化と合わせて神社などを残していきたい。」と続けられます。
生活必需品から看板やお祭り用など装飾的な用途へと移りゆく中で、時代に寄り添いちょうちん自体も変化させている秋村泰平堂。「ハレの日を飾るちょうちんの役割はそのままに、様々な日常のシーンに入り込んでいくことで、日本文化もまた身近になるのではないか」との想いで、ちょうちんの活躍の場の拡大に取り組んでいます。
「私たちは、ちょうちんを通じて、人々の幸せを追求します。」の理念のもと、これからもちょうちん文化と辺りを照らします。
取材:伊藤 優利 撮影:森下 大喜 文:下野 恵美子