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工芸レポート
変化する暮らし 過渡期の指物を模索
「指物」は、釘などを使わずに木と木を組み合わせて作られた家具や箱、調度品のこと。なかでも江戸指物は、漆塗りを施して天然素材の木目を生かす特徴があります。そこで群馬県沼田市で100余年続く指物店の3代目・吉澤良一さんは、18 歳の時に浅草で漆塗りの修行をしたそうです。そのまま指物師に収まるかと思いきや、20 歳頃は父親に反発して京都大阪で舞台美術や舞台照明を学び、舞台監督をしていた時代もあったとか。
「親父の代まではタンスとか作っていましたよ。昔はそれでやっていけてたんだけど、需要が少なくなってきているのは肌で感じていました。いくら俺が1個100万円超えるタンスを作ってその価値を伝えようとしても、今の若者は必要としていないから限界があると思ったんです」。時勢の流れや若者の感覚に敏感なのは、多彩な経験があってこそなのかもしれません。
吉澤良一さん。
吉澤良一さん。
漆で貼り付けるのは唯一無二のストーリー
 今のままではお客さんが息子の代までつながらない、と考えた吉澤さん。若い人もパッと見て「欲しい!」と思ってもらえるようなモノ作りを目指し、暗中模索します。
「そこで役立ったのが、自分の若い頃の経験でした。20代の頃にすごくお世話になった人がいて、美味しい料理とお酒を味わい尽くすような経験をしたんです。それが今も自分の座標軸になっていて、新しい料理やお酒との出会いをその座標軸に落とし込めるようになってきたんです」。
 こうして生み出されたのが、お米のもみ殻、麻、竹、砂などの天然素材と漆を組み合わせた箸やマグカップ、皿など、工芸的でありながら実用性も高い食器シリーズです。箸ひとつをとっても、しぶい発色と滑りにくいゴツゴツした触り心地があります。
「このお箸には炭化させたお米のもみ殻を漆で貼り付けています。廃棄されがちなもみ殻も、こうやって生かすことができるとうれしくなるでしょう? こういうテクスチャーはウチのオリジナル。アイデアからデザイン、仕上げまでを一貫して請け負っているからこそ、繊細な質感まで表現できるんです。」
 漆塗りの技術が、吉澤さんの作品にさらなる深みを加えます。
「漆は縄文時代の頃から天然の接着剤として利用されてきました。この箸に貼り付けたもみ殻も、ある旅館で実際に作ってお客さんに食べてもらっているお米のもみ殻だったんです。漆って、ストーリーを貼り付けられる素材なんですよ」。
炭化させたもみ殻を漆で貼り付けてある箸。
炭化させたもみ殻を漆で貼り付けてある箸。
漆を塗った皿にふりかけているのは、コンニャクの製造過程で廃棄されるグルコマンナンの粉。群馬はコンニャクの名産地だ。
漆を塗った皿にふりかけているのは、コンニャクの製造過程で廃棄されるグルコマンナンの粉。群馬はコンニャクの名産地だ。
国内外の料理人と美味しいコラボレーション
 吉澤さんのモノ作りは食器にとどまらず、家具や照明、店舗のカウンターや空間作りに至るまでどんどん幅が広がっています。2009年から群馬県吾妻郡中之条町の旧酒蔵で行われている「秋 酒蔵にて」は、モノ作りたちによる新たな場所づくりとしてスタートしたイベント。今は吉澤さんの息子さんへ世代交代しながら現在も続いています。
「進化する作品展、というイメージです。料理人とコラボレーションして美味しい料理とお酒も味わってもらうなど、毎年工夫しています」。
 これまで群馬県内で数多くの料理人とコラボレーションしてきた吉澤さん。3年前からは海外展開にも挑戦しています。
「ジェトロ(日本貿易振興機構)さんとの付き合いがあって、海外展開がリアルな話になりました。海外ってやっぱり言葉の壁もあって難しいかな、と当初は思っていたんです。でも海外にはモノを見る目のあるバイヤーさんがいて、俺の代わりにモノがバイヤーとしゃべってくれるんです。初めは中国で展開して、現在はヨーロッパ圏でのパートナーが増えてきています」。
竹のマグカップ。
竹のマグカップ。
3人称のモノ作りこそ「かっこいい」
お客さんと対話するとき、吉澤さんは「自分がかっこいいと思うイメージ」を用意しないそうです。まずはお客さんの背景や願望を探っていきながら、自分が持っている技法やテクスチャーの知識を掛け算して、お客さんと自分の間にあるモノを生み出していく作業から始めます。 「『これはかっこいいのになぜ売れないんだ』って思うモノは、大抵かっこ悪い。自分の世界観だけで完結している1人称の世界なんですよね。お客さんがいて初めて2人称の『かっこよさ』が生まれます。そして今は、『3人称のモノ作りこそがかっこいい』と思っています」。そんな吉澤さんが常に自分に問い続けるのはこの言葉。
「モノ作りはどこから来てどこへ行くのか」
 漆塗りは縄文時代から始まり、指物の歴史は奈良時代や平安時代の宮廷文化までさかのぼることができるそうです。今の自分はどこにいるのか、そしてどこに行くのか。国境や言語の壁も越える吉澤さんのモノ作りは、まだ旅の途中です。
ショールーム内観。
ショールーム内観。
取材:山田 純也 撮影:moco. 文:西田めい
吉澤指物店
locationPin群馬県
#木工品・竹工品-江戸指物
群馬県沼田市にて親子3代続いてきた指物店。昔ながらの木工技術に漆塗り技術、クライアントの背景や要望をかけ合わせ、従来の指物にとどまらないモノ作りを手がけています。
最終更新日 : 2024/04/12
代表者
吉澤良一
創業年
1912年
従業員
3
所在地
〒378-0044 群馬県沼田市下之町873
制作・商品開発を依頼する
「わたしの名品帖」で取り扱っている各工芸メーカーは、独自の光る技術を持っています。 そんな工芸品の技術力を活用したOEMや商品開発などをご検討のお客様はお気軽にご相談ください。
吉澤指物店
locationPin群馬県
#木工品・竹工品-江戸指物
群馬県沼田市にて親子3代続いてきた指物店。昔ながらの木工技術に漆塗り技術、クライアントの背景や要望をかけ合わせ、従来の指物にとどまらないモノ作りを手がけています。
最終更新日 : 2024/04/12
代表者
吉澤良一
創業年
1912年
従業員
3
所在地
〒378-0044 群馬県沼田市下之町873
工芸レポート
変化する暮らし 過渡期の指物を模索
「指物」は、釘などを使わずに木と木を組み合わせて作られた家具や箱、調度品のこと。なかでも江戸指物は、漆塗りを施して天然素材の木目を生かす特徴があります。そこで群馬県沼田市で100余年続く指物店の3代目・吉澤良一さんは、18 歳の時に浅草で漆塗りの修行をしたそうです。そのまま指物師に収まるかと思いきや、20 歳頃は父親に反発して京都大阪で舞台美術や舞台照明を学び、舞台監督をしていた時代もあったとか。
「親父の代まではタンスとか作っていましたよ。昔はそれでやっていけてたんだけど、需要が少なくなってきているのは肌で感じていました。いくら俺が1個100万円超えるタンスを作ってその価値を伝えようとしても、今の若者は必要としていないから限界があると思ったんです」。時勢の流れや若者の感覚に敏感なのは、多彩な経験があってこそなのかもしれません。
吉澤良一さん。
吉澤良一さん。
漆で貼り付けるのは唯一無二のストーリー
 今のままではお客さんが息子の代までつながらない、と考えた吉澤さん。若い人もパッと見て「欲しい!」と思ってもらえるようなモノ作りを目指し、暗中模索します。
「そこで役立ったのが、自分の若い頃の経験でした。20代の頃にすごくお世話になった人がいて、美味しい料理とお酒を味わい尽くすような経験をしたんです。それが今も自分の座標軸になっていて、新しい料理やお酒との出会いをその座標軸に落とし込めるようになってきたんです」。
 こうして生み出されたのが、お米のもみ殻、麻、竹、砂などの天然素材と漆を組み合わせた箸やマグカップ、皿など、工芸的でありながら実用性も高い食器シリーズです。箸ひとつをとっても、しぶい発色と滑りにくいゴツゴツした触り心地があります。
「このお箸には炭化させたお米のもみ殻を漆で貼り付けています。廃棄されがちなもみ殻も、こうやって生かすことができるとうれしくなるでしょう? こういうテクスチャーはウチのオリジナル。アイデアからデザイン、仕上げまでを一貫して請け負っているからこそ、繊細な質感まで表現できるんです。」
 漆塗りの技術が、吉澤さんの作品にさらなる深みを加えます。
「漆は縄文時代の頃から天然の接着剤として利用されてきました。この箸に貼り付けたもみ殻も、ある旅館で実際に作ってお客さんに食べてもらっているお米のもみ殻だったんです。漆って、ストーリーを貼り付けられる素材なんですよ」。
炭化させたもみ殻を漆で貼り付けてある箸。
炭化させたもみ殻を漆で貼り付けてある箸。
漆を塗った皿にふりかけているのは、コンニャクの製造過程で廃棄されるグルコマンナンの粉。群馬はコンニャクの名産地だ。
漆を塗った皿にふりかけているのは、コンニャクの製造過程で廃棄されるグルコマンナンの粉。群馬はコンニャクの名産地だ。
国内外の料理人と美味しいコラボレーション
 吉澤さんのモノ作りは食器にとどまらず、家具や照明、店舗のカウンターや空間作りに至るまでどんどん幅が広がっています。2009年から群馬県吾妻郡中之条町の旧酒蔵で行われている「秋 酒蔵にて」は、モノ作りたちによる新たな場所づくりとしてスタートしたイベント。今は吉澤さんの息子さんへ世代交代しながら現在も続いています。
「進化する作品展、というイメージです。料理人とコラボレーションして美味しい料理とお酒も味わってもらうなど、毎年工夫しています」。
 これまで群馬県内で数多くの料理人とコラボレーションしてきた吉澤さん。3年前からは海外展開にも挑戦しています。
「ジェトロ(日本貿易振興機構)さんとの付き合いがあって、海外展開がリアルな話になりました。海外ってやっぱり言葉の壁もあって難しいかな、と当初は思っていたんです。でも海外にはモノを見る目のあるバイヤーさんがいて、俺の代わりにモノがバイヤーとしゃべってくれるんです。初めは中国で展開して、現在はヨーロッパ圏でのパートナーが増えてきています」。
竹のマグカップ。
竹のマグカップ。
3人称のモノ作りこそ「かっこいい」
お客さんと対話するとき、吉澤さんは「自分がかっこいいと思うイメージ」を用意しないそうです。まずはお客さんの背景や願望を探っていきながら、自分が持っている技法やテクスチャーの知識を掛け算して、お客さんと自分の間にあるモノを生み出していく作業から始めます。 「『これはかっこいいのになぜ売れないんだ』って思うモノは、大抵かっこ悪い。自分の世界観だけで完結している1人称の世界なんですよね。お客さんがいて初めて2人称の『かっこよさ』が生まれます。そして今は、『3人称のモノ作りこそがかっこいい』と思っています」。そんな吉澤さんが常に自分に問い続けるのはこの言葉。
「モノ作りはどこから来てどこへ行くのか」
 漆塗りは縄文時代から始まり、指物の歴史は奈良時代や平安時代の宮廷文化までさかのぼることができるそうです。今の自分はどこにいるのか、そしてどこに行くのか。国境や言語の壁も越える吉澤さんのモノ作りは、まだ旅の途中です。
ショールーム内観。
ショールーム内観。
取材:山田 純也 撮影:moco. 文:西田めい
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