博多人形の歴史と西山陽一創作の原点
福岡県太宰府市高雄にある自宅兼工房で、博多人形の制作にあたられている西山陽一さん。
西山さんは、幼少期から吃音がひどく、人とのコミュニケーションや勉強に難しさを抱える一方、絵を描くこと・創作活動においては受賞したり周囲の方に喜ばれたりしていたことから、自分には創作の道しかないと強く思われたそうです。
高校時代から美術工芸コースのある学校に通い、彫刻を教わり、本格的に芸術の道へ。
九州産業大学芸術学部を経て、人形師の師匠に師事、4年の修行の末、独立されました。
江戸時代の初め、黒田長政が筑紫の入国に伴い、集めた諸国の職人の一部が土産品として販売した土人形が原型とされる博多人形。
伝統的な製法では、①土粘土で原型を作り、②型作りをし、③その型で人形を複数作り、④焼き、⑤日本画の絵具の水干絵具で彩色。さらに作品によっては本金箔・本金粉を丁寧に貼り付けます。西山さんは、最初のデッサンから彩色まで一貫して全てを自身で制作されています。
博多人形師また伝統工芸士として、歌舞伎や能など古典的なものから現代的な物まで幅広い人形を手掛けられています。
伝統を守る写実的な造形力と繊細な彩色
制作者が減少している歌舞伎や能などを題材とした伝統的な博多人形。
制作過程で多数のパーツに分割する必要のある古典的な人型は、分割の配分やどうすると土粘土が剥がれるのかなど仕上がりの不具合の原因などを理解するのに時間がかかります。複雑な型作りに対応できる人形師が減る中で、西山さんの彫刻技術を活かした写実的な型・原形づくりが評価されています。
型にハマらないユニークさと緻密な技術の融合
日々仕事に忙殺されてきたが、コロナ禍に仕事が減り立ち止まる時間ができた西山さん。
得意な分野、好きな表現を突き詰めることを決意され作家活動を始められました。
職人としてのオーダー制作のみならず、アーティスト “YOICHI” としての表現も追求されています。“昔からあるような人形ばかりでは面白くない”と考えた西山さんは、固定概念を覆すようなユニークなモチーフの人形も制作されています。
エッシャーや日本の騙し絵から着想を得たダルマ、農家だった祖父との想い出から生まれたみかんや故郷名産のぶどう、桃などのフルーツなど。家族との会話の中での言葉や、実際に見た景色などから閃くことあるそうです。“バナナ”を作った際には、バナナの外周は五角形のようになっていて、湾曲している下の部分が平になっていることが分かったそう。
人形作りの中で、改めて物の構造を知る面白さや、見え方を研究し、360度バランスを見ながら作ることが楽しいとのこと。
人型の人形を作る際は、姿見で体の構造を確認しながら制作にあたる。
“新しい表現をしたい。作り方に関しても古いやり方に固執はしていない。クオリティさえ変わらなければ、作る素材や表現は変化していっていいと思う。”と西山さん。伝統技法に加え新たな方法も試しながら、いずれは博多人形を世界へ広げることを目標に日々邁進されています。
“お客さんがこんなの見たことないと驚いてくれるのが一番嬉しい。人を驚かせたり感動させたい”と語られる西山さんの挑戦が続きます。
取材:新 拓也 撮影:森下 大喜 文:下野 恵美子