桜から生まれる唯一無二の工芸品 樺細工
1876年、明治9年に創業以来、樺細工の伝統を継承する八柳。
工房のある秋田県仙北市角館は、自然に恵まれた美しい地域で、この地で生み出される樺細工は、ヤマザクラの樹皮を用いて制作されています。
秋田県北部の阿仁地方から角館に伝えられ、その伝統は200年以上受け継がれてきました。山の厳しい環境の中で育った樹だからこそ良質な樹皮が採れるヤマザクラは、秋田の自然が絶妙に育む貴重な素材です。全国にはさまざまな工芸品が存在しますが、桜の皮を使用した工芸品は世界でも唯一無二、樺細工のみ。
幹から丁寧に剥がした樹皮を1年以上陰干しして水分を抜き、丁寧に削り色合いを出していく製品は“世界に類を見ない樹皮芸術”と評されています。
魅力的な美しさと共に、評価されているのが、その素材としての優れた性質。湿気を抑える特性は昔から重宝され印籠、薬篭、胴乱、茶筒など、時代に合わせ形状は移り変わりながら人々の暮らしに寄り添う製品として技術が受け継がれています。
7代目の八柳浩太郎さんは幼少期から樺細工や桜の皮に触れ、この伝統を絶やしてはならないという使命感を抱き、家業を継ぐことを決意されました。
人と自然と共に歩み次世代へ繋ぐ
八柳は、樺細工の製造販売業を通じて、秋田県の地域社会への貢献も行っています。地元のイベントや展示会への参加、地域の文化振興活動への支援など、地域とのつながりを大切にしています。そのため、八柳の樺細工は、秋田県の特産品として認知度も高く、地域経済の活性化にも寄与しています。
また、八柳は小・中学校で地場産業体験と合わせ歴史を教えたり、地元の支援学校の授業の中で樺細工の制作に取り組んでもらったり、会社の店舗を使った模擬販売など生徒たちに実践的な経験を提供し、伝統を次世代に繋ぐ活動を行っています。
素材集めには苦労することもあります。311の震災の影響で、福島からの木材入荷が途絶えた際には、自力で木材を探しに行きました。自分たちで山を探し、良質な木材業者と連携を築き、なんとか材料を調達できました。困難な状況を乗り越える経験を共にしてチームワークと仲間意識も高まりました。
伝統とは絶えざる革新の中でこそ生き続ける
代々受け継がれてきたミリ単位の高い技術で、美しさと使いやすさを兼ね備えた安心安全な製品を生み出す八柳。
茶筒を買うと30~50年は使用可能な為、1度買ってくれたお客様が50年使い続けて、50年後に買い直したり修理の依頼にきてくださることも。
製造技術には、3つのタイプ、樹皮を巻いた「型もの」下地となる木に樹皮を貼る「木地もの」美しい光沢を生かし、磨いた樹皮を重ね貼りし彫刻する「たたみもの」があります。これらの技法を使い分け、茶筒状の物、お盆や箱型、ブローチやペンダント、旅館の柱や表札など、暮らしの道具から大型まで製品作りは多岐に渡ります。
“伝統工芸は斜陽産業ではあるが、全国を見れば、樺細工を作っているのは、日本でここだけ、世界でここだけ。だから可能性しかないと思っている。”と語る八柳さん。
過去からの伝統もありながら、その時代時代の生活様式に合わたものづくりをしてきていることが八柳の製品が支持される大きな理由となっています。
最近では角館の新たな名物を目指し“『飲む伝統工芸』” として樺細工に用いるヤマザクラの樹皮を使用した「桜樺茶(さくらかばちゃ)」を販売開始。
昔からの主力製品である茶筒をコーヒー用としてアレンジし、世界の市場に打ち出していくことなども模索中です。
ヤマザクラの樹皮を使用した「桜樺茶(さくらかばちゃ)」
「伝統とは絶えざる革新の中でこそ生き続ける。」の信念の下、
古き良きものを現代のスタイルに落とし込み、ものづくりを続けています。
取材:新 拓也 撮影:森下 大喜 文:下野 恵美子