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工芸レポート
独学で300年の歴史ある調理器具・純銅おろし金の道へ
江戸時代より続く300年もの歴史ある調理器具・純銅のおろし金を、ひとつひとつ手打ちでつくっている和歌山の紀州新家。
日本固有の文化である、おろし金ですが、今では紀州新家を含め、国内の専門店は全国に4軒ほどとなりました。職人の新家崇元さんが、手掛ける純銅のおろし金は、従来のデザインから独自の進化を果たしたことで評価され、今では一般家庭だけでなく日本中の料理人に愛されています。そこには「世界一」を目指す、新家さんの想いが、手打ちされた目に詰まっていました。

新家さんは、約30年にわたって建築や造園業に携わり、2017年に独学で手打ちのおろし金の世界へ。登山が趣味で全国の山へ訪れるたびに、各地の工芸を見て回っていたところ、おろし金と出会ったそうです。当時は建築の職人で、「自分にしかつくれないものをつくり、地球でたったひとりの存在になりたい」と考えていたところ、おろし金職人の高齢化・高齢化不足により文化が途絶えてしまう可能性を知り、自分なら何かできるのではないかと考えてこの道を目指すことになりました。
職人の新家崇元さん
職人の新家崇元さん
おろし金になる前の銅板を切断していく
おろし金になる前の銅板を切断していく
デザインと実用性の進化で、『グッドデザイン賞』受賞
新家さんのつくるおろし金は、従来のちりとり型から持ち手が横向きに刷新されています。これにより、手のひらに乗せたり、持ち手を握る、置いて使う、容器に引っ掛ける、といった多様な使い方ができるように。さらに、おろせる面積も広くなっています。この新たなおろし金で、おろし金職人を目指してからわずか1年の2018年と2021年の『グッドデザイン賞(GOOD DESIGN AWARD)』を受賞しました。

もうひとつの特徴が、銅に錫をコーティングした鏡面仕上げです。従来のちりとり型のおろし金を使うと、持ち手が銅のものは手に匂いがつくことがあり、これを嫌がる料理人も多いため全面に錫をコーティングすることで解消。また、銅は耐久性・加工性に優れ、銅イオンの微量金属作用により殺菌力もある優れた素材ですが、錫のコーティング効果でさらに菌の付着も抑制され、より衛生的になっています。 錫は柔らかい素材なので、磨きすぎると中の銅が見えてしまうため非常に難しく技術のいる作業を経て、実用性とデザイン美を兼ね備えた鏡面仕上げが生まれています。
銅に錫をコーティングしている様子
銅に錫をコーティングしている様子
新家さんのお孫さんが工房に度々いらっしゃるそうで、お孫さんに楽しんでいただけるようにとミニカーやウルトラマンのフィギュアのコーナーが工房内に設けられています。新家さんの人柄が垣間見えます。
新家さんのお孫さんが工房に度々いらっしゃるそうで、お孫さんに楽しんでいただけるようにとミニカーやウルトラマンのフィギュアのコーナーが工房内に設けられています。新家さんの人柄が垣間見えます。
食材の味を引き出す、研究を重ねた目立ての黄金比
そして、徹底的に研究し、試行錯誤を繰り返してたどり着いた目立ての大きさ、幅、形状の黄金比が、ほかにはない紀州新家のおろし金を生み出しています。目立ては尖っていないため指で触っても切れにくく安全で、しかし「磨る」よりも「切る」に近い刃物に近いため、素材の繊維や細胞を壊すことなく、みずみずしさもそのままに食材の味を引き出しています。

この目の大きさや幅、形状を変えることで、さまざまな種類の食材で使えるおろし金を実現。料理人からの要望も多く、それぞれの用途に応じてオーダーメイドも行っています。たとえば、大根おろしひとつとっても、空気が入った口当たりの軽いふわふわ食感から、ザクザクと食感を残した食感までおろすことができるのです。  また、従来のおろし金はすりおろした食材を下に落としていくのですが、手打ちのおろし金はすり下ろした食材を、ノコギリのように上下に引き上げ繰り返し下ろすことで板の上を転がるように動いていきます。 このすりおろしと転がる2つの工程によって、角のないまろやかな味わいになり、素材本来の食感を残すことができています。目立てのサイズも従来よりも大きいため引っ掛かりが少なく、力いらずで楽にすりおろすことができ、水で流すだけできれいになるところも特徴です。
目立てをするためのタガネ
目立てをするためのタガネ
「世界中の料理人に愛されるような、おろし金をつくる」
おろし金を何千枚も作っていると、目立ての角度や尖り具合で、「これはザクザクの食感になるな」「これは辛くなるな」「甘くなるな」と、おろし金が語りかけてくるような感覚がわかってくるのだとか。それほどまでに、おろし金に魅せられ、向き合い続けている新家さんが目指すのは「世界一の職人」。自身がつくったおろし金が、世界中の料理人に使われるようになることで世界一を目指し、そのためにはつくるだけでなく、自分でつくったものをしっかりと発信することも大切だと話してくれました。過去には、テレビ番組に取材を依頼したり、話し方も学んで自身の殻を破っていくことにも取り組んできたといいます。 今もデザイン性と機能性を求め続け、今ではまるでアート作品のような「匠シリーズ」というおろし金も作っています。
「匠シリーズ」
「匠シリーズ」
「おろし金の道は『沼』なんです。一個作り、結果が出ると次のドアが出てくる。自分がしていることは過去に例のないことをしているのでゴールがわからない。昔は追求しすぎて精神が崩壊する瀬戸際にまで落ちたこともありましたが、今は視界がクリアで世界一のビジョンが見えています。究極のものを作り出すためには叩かれても僻み根性でも、ものづくりを突き詰めることで究極のもモノができると考えている。これからも世界一を目指すため、おろし金と向き合って、日々、進化させたいです」(新家崇元)
取材:新 拓也 撮影:森下 大喜 文:大西 健斗
紀州新家
locationPin和歌山県
#金工品-おろし金
江戸時代より続く300年もの歴史ある調理器具・純銅のおろし金。今では「紀州新家」を含め、国内の専門店は全国に4軒ほどとなりました。「紀州新家」のおろし金は、従来のデザインから独自の進化を果たしたことで評価され、今では一般家庭だけでなく日本中の料理人に愛されています。
最終更新日 : 2023/10/23
代表者
新家崇元
創業年
2017年
従業員
1
所在地
〒648-0025 和歌山県橋本市向副1039
受賞歴
2018年
グッドデザイン賞(GOOD DESIGN AWARD)
2021年
グッドデザイン賞(GOOD DESIGN AWARD)
制作・商品開発を依頼する
「わたしの名品帖」で取り扱っている各工芸メーカーは、独自の光る技術を持っています。 そんな工芸品の技術力を活用したOEMや商品開発などをご検討のお客様はお気軽にご相談ください。
紀州新家
locationPin和歌山県
#金工品-おろし金
江戸時代より続く300年もの歴史ある調理器具・純銅のおろし金。今では「紀州新家」を含め、国内の専門店は全国に4軒ほどとなりました。「紀州新家」のおろし金は、従来のデザインから独自の進化を果たしたことで評価され、今では一般家庭だけでなく日本中の料理人に愛されています。
最終更新日 : 2023/10/23
代表者
新家崇元
創業年
2017年
従業員
1
所在地
〒648-0025 和歌山県橋本市向副1039
受賞歴
2018年
グッドデザイン賞(GOOD DESIGN AWARD)
2021年
グッドデザイン賞(GOOD DESIGN AWARD)
工芸レポート
独学で300年の歴史ある調理器具・純銅おろし金の道へ
江戸時代より続く300年もの歴史ある調理器具・純銅のおろし金を、ひとつひとつ手打ちでつくっている和歌山の紀州新家。
日本固有の文化である、おろし金ですが、今では紀州新家を含め、国内の専門店は全国に4軒ほどとなりました。職人の新家崇元さんが、手掛ける純銅のおろし金は、従来のデザインから独自の進化を果たしたことで評価され、今では一般家庭だけでなく日本中の料理人に愛されています。そこには「世界一」を目指す、新家さんの想いが、手打ちされた目に詰まっていました。

新家さんは、約30年にわたって建築や造園業に携わり、2017年に独学で手打ちのおろし金の世界へ。登山が趣味で全国の山へ訪れるたびに、各地の工芸を見て回っていたところ、おろし金と出会ったそうです。当時は建築の職人で、「自分にしかつくれないものをつくり、地球でたったひとりの存在になりたい」と考えていたところ、おろし金職人の高齢化・高齢化不足により文化が途絶えてしまう可能性を知り、自分なら何かできるのではないかと考えてこの道を目指すことになりました。
職人の新家崇元さん
職人の新家崇元さん
おろし金になる前の銅板を切断していく
おろし金になる前の銅板を切断していく
デザインと実用性の進化で、『グッドデザイン賞』受賞
新家さんのつくるおろし金は、従来のちりとり型から持ち手が横向きに刷新されています。これにより、手のひらに乗せたり、持ち手を握る、置いて使う、容器に引っ掛ける、といった多様な使い方ができるように。さらに、おろせる面積も広くなっています。この新たなおろし金で、おろし金職人を目指してからわずか1年の2018年と2021年の『グッドデザイン賞(GOOD DESIGN AWARD)』を受賞しました。

もうひとつの特徴が、銅に錫をコーティングした鏡面仕上げです。従来のちりとり型のおろし金を使うと、持ち手が銅のものは手に匂いがつくことがあり、これを嫌がる料理人も多いため全面に錫をコーティングすることで解消。また、銅は耐久性・加工性に優れ、銅イオンの微量金属作用により殺菌力もある優れた素材ですが、錫のコーティング効果でさらに菌の付着も抑制され、より衛生的になっています。 錫は柔らかい素材なので、磨きすぎると中の銅が見えてしまうため非常に難しく技術のいる作業を経て、実用性とデザイン美を兼ね備えた鏡面仕上げが生まれています。
銅に錫をコーティングしている様子
銅に錫をコーティングしている様子
新家さんのお孫さんが工房に度々いらっしゃるそうで、お孫さんに楽しんでいただけるようにとミニカーやウルトラマンのフィギュアのコーナーが工房内に設けられています。新家さんの人柄が垣間見えます。
新家さんのお孫さんが工房に度々いらっしゃるそうで、お孫さんに楽しんでいただけるようにとミニカーやウルトラマンのフィギュアのコーナーが工房内に設けられています。新家さんの人柄が垣間見えます。
食材の味を引き出す、研究を重ねた目立ての黄金比
そして、徹底的に研究し、試行錯誤を繰り返してたどり着いた目立ての大きさ、幅、形状の黄金比が、ほかにはない紀州新家のおろし金を生み出しています。目立ては尖っていないため指で触っても切れにくく安全で、しかし「磨る」よりも「切る」に近い刃物に近いため、素材の繊維や細胞を壊すことなく、みずみずしさもそのままに食材の味を引き出しています。

この目の大きさや幅、形状を変えることで、さまざまな種類の食材で使えるおろし金を実現。料理人からの要望も多く、それぞれの用途に応じてオーダーメイドも行っています。たとえば、大根おろしひとつとっても、空気が入った口当たりの軽いふわふわ食感から、ザクザクと食感を残した食感までおろすことができるのです。  また、従来のおろし金はすりおろした食材を下に落としていくのですが、手打ちのおろし金はすり下ろした食材を、ノコギリのように上下に引き上げ繰り返し下ろすことで板の上を転がるように動いていきます。 このすりおろしと転がる2つの工程によって、角のないまろやかな味わいになり、素材本来の食感を残すことができています。目立てのサイズも従来よりも大きいため引っ掛かりが少なく、力いらずで楽にすりおろすことができ、水で流すだけできれいになるところも特徴です。
目立てをするためのタガネ
目立てをするためのタガネ
「世界中の料理人に愛されるような、おろし金をつくる」
おろし金を何千枚も作っていると、目立ての角度や尖り具合で、「これはザクザクの食感になるな」「これは辛くなるな」「甘くなるな」と、おろし金が語りかけてくるような感覚がわかってくるのだとか。それほどまでに、おろし金に魅せられ、向き合い続けている新家さんが目指すのは「世界一の職人」。自身がつくったおろし金が、世界中の料理人に使われるようになることで世界一を目指し、そのためにはつくるだけでなく、自分でつくったものをしっかりと発信することも大切だと話してくれました。過去には、テレビ番組に取材を依頼したり、話し方も学んで自身の殻を破っていくことにも取り組んできたといいます。 今もデザイン性と機能性を求め続け、今ではまるでアート作品のような「匠シリーズ」というおろし金も作っています。
「匠シリーズ」
「匠シリーズ」
「おろし金の道は『沼』なんです。一個作り、結果が出ると次のドアが出てくる。自分がしていることは過去に例のないことをしているのでゴールがわからない。昔は追求しすぎて精神が崩壊する瀬戸際にまで落ちたこともありましたが、今は視界がクリアで世界一のビジョンが見えています。究極のものを作り出すためには叩かれても僻み根性でも、ものづくりを突き詰めることで究極のもモノができると考えている。これからも世界一を目指すため、おろし金と向き合って、日々、進化させたいです」(新家崇元)
取材:新 拓也 撮影:森下 大喜 文:大西 健斗
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おろし金(匠シリーズ)
おろし金(匠シリーズ)
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