偶然にして生まれた、奇跡の焼き物「龍爪梅花皮」
琵琶湖を望む、築250年のヨシ葺き屋根の古民家にかまえられた陶房・日ノ出窯。
優美な白と、力強い龍の爪あとのようなちぢれ模様が特徴の「龍爪梅花皮」は、ここで陶芸家・岩崎政雄さんによって作陶されています。
「龍爪梅花皮」は、偶然の賜物として生まれ、試行錯誤の末に量産できるようになったことから「奇跡の焼き物」と称されています。かつて京都で清水焼の修行を積んでいた岩崎さんの調合した釉薬が、予想外に縮れたことから生まれました。それならばと発想を転換させた岩崎さんは、意図的にちぢれ模様を作り出すことに。しかし、偶然の賜物であるがゆえ安定したちぢれを生み出すことが難しく、試行錯誤を重ねること3年をかけ、ついに理想のちぢれ模様で量産できるようになりました。しかし、今でも完全にちぢれ模様の出方をコントロールできているわけではなく、土・釉薬・炎と対峙する日々が続いています。
こうして誕生したちぢれ模様は、琵琶湖周辺に多く残る龍神伝説にちなんで、龍の爪あとのような力強いちぢれから「龍爪(りゅうそう)」と名付け、刀剣の柄に巻くエイの皮を「梅花皮(かいらぎ)」と言い、その表面に似ていることから「龍爪梅花皮(りゅうそうかいらぎ)」と名付けられました。赤の梅花皮を手がけている窯元は少ないため珍しく、新感覚の和陶器として、有名ホテルや高級料理店で高い評価を得ています。
ひとつひとつの工程の積み重ねで生まれる、この世にひとつの優美なちぢれ模様
「龍爪梅花皮」は、完成までの工程がいくつもある中で、どれかひとつだけ特別なことをすればできるものではありません。全ての工程でミリ単位の調整が必要で、職人によるひとつひとつの手作業の積みかさねで生みだすことができます。
例えば、最初の工程となる土の調合。さまざまな特徴のある土の中から理想のちぢれを生み出すため、滋賀と京都の土を絶妙な割合で調合して練っています。この調合と練り具合を間違えると、次の成形や焼きの段階など、すべての工程に支障をきたしてしまうのです。その後も試行錯誤の末にたどり着いた独自の釉薬をたっぷりと塗り、火入れの温度を微妙に調整しながら焼きあげる。そして、最後の仕上がりは火の神様に委ねることで、ひとつひとつのちぢれ模様が異なる、同じものはひとつとしてない作品が完成するのです。
夫婦二人三脚で作り上げる、ブランドの姿
「龍爪梅花皮」は、岩崎政雄さんと三知子さんが夫婦二人三脚で育てているブランドです。時代の流れとともにモノが売れなくなった中で、かつて企業のブランディングプロジェクトに携わっていた経験のある三知子さんが、職人気質の政雄さんに代わって作品のPRを担うようになりました。国の登録有形文化財に登録されている、よしぶき古民家の工房をギャラリーとして開放し、展示会の開催や食事会、陶芸体験などさまざまなイベントを開催しています。
「毎日の暮らしの中で料理を盛り、花を活け、飾るだけの器ではなく、人々に寄り添い、洗練された器としてお使いいただけるよう、これからも用の美であり続けたいと思っています」(岩崎政雄さん)
取材:新 拓也 撮影:森下 大喜 文:大西 健斗